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リバーシブル・ライフ
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リバーシブル・ライフ-8

「お世話になりました」
秋人は看守に挨拶をし、刑務所の門をくぐる。
見上げれば、空は広く、やるせない気分になる。
挨拶に来た真田元弁護士は、既に立ち去っていた。
結局彼には、真実を話すことはしなかったし、彼もそれを望んではいないようだった。
『裁判という場所では、真実はいらないんだ』別れ際に言った彼の呟きは深く、彼がバッジを棄てた理由も、きっとそこにある。
『希望を打ち砕くために、人を裁くのなら、それこそが悪だと考えるようになった。罪は何も無いところからは生まれない。あるべくして存在する業ならば、それを肯定する必要もある』
そう言った彼は、これから何をするのか、僕には分かるはずもない。
確かに希望は砕かれた。これから過ごす日々には何ひとつ希望を持つことなど出来ない。
ツミビトと指をさされながら、きっと淡々と生きていかなければならない。
後悔は無い。
後悔は無い、けれどハル、もう一度だけでも、お前の笑顔が見たい。
秋人は、門から踏み出す事が出来ず、俯いた。
目を閉じると、声が聞こえた。
『アキ、自分の意志で生きろよ』
・・そうだな
ハルの最後の姿を思い出す。
確かに、彼は生きていて。
秋人は一歩踏み出した。
確かに、僕は生きていく。

秋人は顔を上げた。
すると正面に、懐かしい姿を見つけた。
「ナツ、か?」
その問いに、彼女は優しく微笑んだ。「ひさしぶりだね」
― 元気だったか?
― うん
桜の花びらが舞う
― もう、七年経っちまったよ
― おかえり
― すまなかったな
― 何を謝ってるの?
― すまなかった
― 謝る必要なんてない
ふたり、顔を合わせると足りないピースが頭に浮かび、秋人は視線を空へ向けた。
はらはら、と。
あたかも空の向こうから生まれ落ちてくるように。
桃色の花びら。
ハル、泣いているのか?
胸のうちで問い掛けてみる。
「きっと喜んでいるのよ」
答えたのはナツだった。
言われて彼女を見ると、傍らの少年に気づく。
「あれ?君は・・・」
「私の子供よ」
「結婚したのか?」
「この子を見れば分かるでしょ?」
あぁ、やっぱり、この子は・・・。
「ほら、挨拶しなさい」背中を叩かれ、少年は一歩、前へと踏み出した。
「とうや、です」
かつての親友に似ている。
当然だ。
「漢字は、・・」
「いや、言わなくても分かるよ」
春夏秋冬。
冬の訪れは、春の予感。
「お願いがあるの、秋人。私と一緒に、この子を育ててくれないかしら? 」
ざあぁぁ
一陣の風が、桜を舞い上げ、僕たちは春に包まれる。
そしてここに、再び僕が生きていく意味を見つけた。
「ねぇ、おじさん」
見慣れた眼が言った。
「パパの事、教えてくれない?」
「そうだな。じゃあ歩きながら話そうか」僕は言って少年の手を握った。
そして歩きだす。
三人で、歩きだす。
君のパパはね・・・
そして僕らは十二年ぶりに、春を語るのだ。

時間を遡ったように
若き日の彼に出会い
また、笑い合う日々を歩く。
再び、生きる意味を見つけた、その日。
春の陽射しが天から差し込んでいた。


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