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リバーシブル・ライフ
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リバーシブル・ライフ-7

僕は腰を抜かして、その場にへたりこんだ 。
しばらくしてドアは乱暴に開けられ、僕は身柄を拘束される。
すぐにハルの両親が駆け付けた。
母親は泣きながら僕の胸を何度も叩いた。
父親は何故か僕に頭を下げ、「全てを背負わせて、すまなかった」と言った。
誰にも何も言わなかった。
信じてもらえないだろうし、結局ハルを殺すつもりだった事に変わりはない
ただ誰かに言いたい事実がある。
ハルはあの時、確かに生きていた。
自分の意志で、
自分の力で。
残酷にも、その方向は死を向いていたけれど
それでさえ
『美しい』と
僕はそう思ったんだ。

今、薄暗い鉄格子のなかで春を迎える。
刑期は予想より短かったけれど、それでも数え切れぬほどの季節を越えなければならない。
後悔は無い。
ハルが僕の立場だったら、きっともっと早く眠らせてくれただろう。
誰もが死を怖れる。
だけど、それに救われる時が来るのも、また事実。
人はよく生が光で死は闇だ、と例えるけれど、それが突然反転したとしたら何を思うのか。
死に意味が生まれ、光を放つようになったら。
目に映る世界のネガとポジが逆転しても、僕らは目をこらすだろうか。
それとも目を閉じるだろうか。
もう誰も知ることはできない。


Epilogue
Re-birth-able life
奈津美は、落ちてくる花びらに視線を向けた。
ピンクの軌跡は、大きく円を描いて足元に舞い散った。
それは、春に咲く花だという。
遠い昔に置き去りにした季節を、私には感じることなどできない。

秋人と春樹はいつも一緒だった。二人はとても楽しそうに冗談を言いあいながら笑っていた。そこに加わりたくて、私は二人に近寄った。
確か中三の春だったと思う。
「だって、春と秋を繋ぐのは夏の役目でしょう?」
煙たがる彼らに近づくための決まり文句だった。
期待していた通り、二人と一緒にいるのは楽しくて、あんなに充実した時間は後にも先にも訪れないに違いない。
ある時から、私と春樹は想い合い、一線を越えて三人のバランスは微妙に崩れた。
秋人は、それを残念がるようであり、楽しんでいるようでもあった。
きっとどこまでも続く青い空。
果てなんて無いと思った。

それは高校三年の春だった。
授業中に急に胸を押さえてうずくまった春樹は、そのまま動くことの出来ない体になった。
私は放心状態で大学にも行かず、春樹のベッドの傍らにいた。
私の時間は、完全に止まったのだ。
誰の言葉も耳に入らなかった。
見かねたのだろう、秋人は私を病室から閉め出し、二度と見舞いに来るなと言った。
お前は自分の人生を生きろ、と。
首を振りつづける私に、彼は歯軋りをして続けた。
『お前は偽物だったんだ。春と秋を繋ぐのは夏だけど、奈津美、お前はその名に刻まれていないじゃないか。僕らの間に入って、分かったふりをするな』
声が泣いていた。
だからそれが本心ではないことなど知っていた。
知っていながら、私はその言葉を受け入れた。
以来、私は彼の病室に一度も足を運んでいない。

もう、七年の時が過ぎる。
マスコミが騒ぎ立てた事件。その後先には興味を失くし、刑期が終わる。
私は、秋人の出所を待っている。


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