青かった日々〜兆し〜-3
時間は少しだけ戻り、悟史が熱を出した朝。明は中田から悟史の容態を聞くと、仕事に行く前に携帯を開いた。
アドレス帳で相手の名前を確認して、ふと通話ボタンを押す指が止まる。
「そういや、名字変わったんだったな」
そんなことをひとりごち、通話ボタンを押した。
連絡をとらなくなって久しいが、果たして彼女は出てくれるのだろうか。
《またシケた顔してる。停学でも喰らった?》
一度目のコールが鳴る。
《同じ大学だもん。これからは一緒に行こうよ》
二度目のコールが鳴る。
《私たちって、付き合ってるのかな?》
三度目のコールが鳴り終わり、四度目の途中で音が途切れた。
『もしもし?』
「おす、雪乃(ゆきの)」
電話に出たのは悟史の姉、雪乃。久しぶりの会話にお互い最初は緊張したものの、直ぐに昔の様に話すことが出来た。
悟史が熱を出した。もし暇があるのなら、見舞いにでも来て欲しいという内容を伝える。
受話器からは馬鹿だと軽く悪態をつきながらも、弟を心配する姉らしい様子も窺えた。
「俺はもう仕事だからよ。用件は伝えたぜ」
お互いに軽く挨拶を交わして電話を切る。その手は軽く汗をかいていた。
「……仕事いくか」
明が何を思ったか。それを知る者は誰もいなかった。
「可愛い弟が風邪を引いたって聞いたからさ、病院行く?」
「大丈夫だよ」
布団に仰向けになりながら悟史はただ一言だけ雪乃に返す。
雪乃は釈然としない様子だったが、表情を直すと部屋を見渡した。