Rebellious-1
男の両腕が伸びてくる。女は軽くステップバックして攻撃を促すと、素早く踏み込み掌底を男の鳩尾に叩き込んだ。
「グッ!」
鈍い声とともに男はヒザから崩れた。女は素早い動きから、顔面めがけて正拳を突いた。
男は瞼を固くつぶった。
拳は風圧を残しながら、目の前で制止していた。
女は深く息を吐くと表情を和らげる。
「ごめんね、三田君。痛かったでしょう」
女は、三田と呼んだ男の手を取り引き起こす。とたんに拍手と感嘆の声が鳴り出した。
女生徒だけ集められた体育館の壇上に立つ女は、小さく会釈するとマイクにむかい、
「このように、対象法を心得ていれば、男性に抱きつかれても怯む必要はありません」
爽やかさ漂う笑顔で語り掛けた。
「それじゃあ、2人1組に分かれて」
女生徒逹は、壇上での女の動きに合わせて練習を始めた。
彼女の名は佐々木久美、25才。
20才の時、空手の全日本女子チャンピオンとなり、今は中学校で教鞭を取りながら、女子生徒に護身術を月1回教えている。
「もう1度やるわよッ!後ろから組み付かれたら、相手の足の甲を思い切り踏んで…」
彼女とすれば、週1回でも教えたい気持ちなのだが、忙しい生徒逹にすれば無理な話だ。
それでも、自分の習ってきた空手が少しでも子供逹の役に立てばと思い、今日も生徒会委員である三田相手に組み手を教えていた。
すると、久美のそんな姿に触発されたのか、女生徒逹も真剣な顔で動きを合わせる。
「もっと真剣に打ち込んでッ!」
久美の教えは、それから1時間ほど続いた。
「三田君。身体は大丈夫?」
体育館を後にする女生徒逹を壇上から眺めつつ、久美は三田に訊ねる。
「ええ。先生が手加減してくれたおかげですよ」
三田は壇上を降りながら、自らの鳩尾の辺りをさすって苦笑いを浮かべた。
「もっとも、掌底の打ち込みは久しぶりだったんで息が詰まりましたけど…」
「ごめんなさいね。つい、本気になっちゃって」
「とんでもない。これも生徒会の仕事の一環ですし…」
そう云って微笑む三田に、久美も笑みを返す。
当初、護身術を教えようとなった時、久美は男の先生に相手を頼もうと考えていた。
そうして体育の先生が引き受けてくれたのだが、1回目のデモンストレーションで寸留めを忘れて失神させてしまった。
それ以降、誰も引き受けてもらえず久美は困っていた。