Rebellious-2
そんな時、
――先生、ボクがやります。
と、手を挙げてくれたのが当時2年生の三田だった。
以来1年ほどになるが、時折、寸留めが利かずに当ててしまう久美に、彼は文句も云わずに相手をしてくれる。
そんな三田を久美は気に入っていた。
「じゃあ先生、次は…」
談笑しながら体育館を出た三田の喋べりが突然止まった。
久美は不可解な面持ちで表情を窺った。
「どうかしたの?」
「…い、いや…」
そう云うと三田は両手で鳩尾を押さえ、苦しそうな顔で床に片ヒザを着いた。
「ちょ…ちょっと…三田君ッ!き、救急車ッ」
これには、さすがの久美もパニックに陥った。
慌てて三田の身体を支えて携帯を取り出そうとする。
その手を三田が止めた。
「…だ、大丈夫です。ちょっと息が詰まっただけですから」
そして立ち上がると、ヨロヨロとした歩調で廊下を進もうとした。
「だったらさ、保健室で少し休みなさい。ねっ?」
「…はあ…」
三田は久美に促され、半ば彼女に抱きかかえられながら保健室に向かった。
「ほら、もう少しだから」
2人は体育館と校舎をつなぐ1階の渡り廊下を進むと、校舎出入口そばにある保健室の扉に手を掛けた。
「先生ッ、すいませんッ。ちょっと診てもらえますか」
久美は扉を開けて慌てた口調で保健担当の石渡を呼んだ。が、いつも居るはずのデスクには誰も居ない。どうやら、放課後からだいぶ経つので席を外したようだ。
「困ったわ…居ないなんて」
不安顔で思案する久美。
対して三田は弱々しい声ながらも、彼女に心配かけまいとする。
「…大丈夫です。此処で少し休んだら帰りますから」
「でも…」
「先生も仕事が残ってるんでしょう。行って下さい」
優しく声を掛け、彼女から離れると自らベッドに横たわった。
久美はしばらく考え込んでいたが、やがて表情を緩ませると、
「じゃあ、帰りは声を掛けて。送って行くから」
そう云って保健室を後にした。
久美とすれば三田が回復するまで看てやりたいのだが、自分が居ては返って緊張させるかもしれない。
それに、しばらくすれば石渡も戻って来る。自分より扱いを心得えている石渡の方が三田にとっては良いだろう。
――まして三田の体調が治った時に、仕事に追われていては送ることも出来ない。
久美はそう思い直し、職員室に戻ると残した業務に向かった。