「幸福の時間」-2
『え!?卓也(たくや)行けねーの?』
『ワリィ、ちょっと家の用事があって』
『マジがや〜、んで今日の花火はひとりか…』
『マジごめんね…あっ!隆之(たかゆき)誘えばいーべや』
『隆之か…一応誘ってみるか』
『じゃあ切るね……プツッ』
ツーツーツー…ガチャ
受話器を置いて深くため息をつく。
卓也というのは俺の小学校から友達で、中学校でも同じバスケ部。当然高校もバスケ部だ。バスケ部の中では1番付き合いが長い。
「はぁ〜仕方ね―な」
アイツと行くのは好きじゃないけど…
「隆之〜今日の花火一緒に行かねぇ?」
「やんだ」
返事が0.3秒で返って来た。
「そんな事言うなって〜、てか返事はやっ!!」
「だってお兄ぃと行くと絶対嫌なことに会うし」「……そこまで嫌か……しゃあねぇ、一人で行くか…」
俺の弟、隆之は中学3年生。今年が受験でありながら本人は勉強などしていない。因みに学力に関してはノーコメント。まぁ俺よりは悪くないが…
―そして夏祭り―
夕方6時を過ぎ、日が沈みかけてきた。お祭り独特の音が陽気に響きわたり、人がごちゃごちゃいる。すでにお祭りは始まっていた。
(結局一人で来てしまった…何かむなしい…)
屋台をまわってみたり、たこ焼きやフライドポテトを食べたり、一人でもお祭りを充分に満喫できた。
食べ歩きもあきたので中学時代の友達を探してみようとして、辺りをぐるっとを見回す。
(誰か知り合いは、い・な・い・か・な?………あっ、剛史だ)
「お〜い、剛史〜!」
剛史(つよし)が回りを見渡す。声の主を探しているようだ。こっちを見て目が合った。
一瞬、とびっきり最高に嫌な顔をされた。
「よっ、一人で来てんの?」
剛史は下を向いて声色を変えた。
「エっ、アノ人違イジャナイデスカァ?」
「ウソ言うな、登米高バスケ部1年にして米山中学校出身、つまり俺の後輩に当たる高橋剛史君」「何かやけに説明的ですね」
「こうでも言わないとシラを切り通すつもりだろうが」
「一人で来てるんですか、うわっ寂しい人だな〜」
「うるせっつーの、おめぇも一人だべ!」
「オイはバスケ部1年と待ち合わせですよ」
「アイツら来んの!?うわ〜、会ったら何かおごれとか言われそうだな…」「じゃあ待ち合わせの時間なんで、……あっそういえばちょっと前に早希(さき)先輩見ましたよ」
一瞬思考回路が停止した
「………えっ?早希、来てんの?どこら辺で見…」
すでに剛史は目の前から走りさっていた。
(早希が……来てるのか……)
何も考えず、いや何も考えられず、ぼーっと立ち尽くしていた。
………ふと意識が戻ってきた
(帰ろう。今更会って何とかなるわけでもないしアイツだって俺なんか見たくないだろう)
振り返って下を向き歩き出す。
ドンッ!!
チャリーン!
ジャラジャラ!
「キャッ!?」
「痛てっ!!」
(ヤベッ、人にぶつかっちまった)
「すいません!ちょっと下を見てたもんで」
(あ〜サイフ落としちまった。ったく誰だよ…)
!!!!!?
「いえコチラこそ、ぼ〜っとしてたんで」
(………さ……き?)
「あの〜ケガとかないですかぁ?」
彼女は地面に落ちた小銭を懸命に拾っている。
その為か俺が誰だか分からないまま話しかけているらしい。
(どうする、返事した方がいいのか?しかし彼女が僕の顔を見た時の反応が怖い…でも返事しなくても失礼だろうし…)
どうする
どうする
どうする
どう……
「あれぇ?清隆くん?」どうす…!!?
「あ〜!やっぱり清隆くんだぁ!」
彼女は俺をのぞきこんでいた。
「#★£△?$!!」
言葉にならない程おどろいた。ドッキリ番組だったら最高のリアクションだったろう。
「久しぶりに会ったのにそんな顔することないでしょう」
彼女は子供を叱るときのような顔で僕をにらんでくる。
彼女の名前は早希。中学時代、僕が世界で一番大切だった人だ。
早希は身体はちっちゃめで身長は150?くらい。多少、いやかなりの天然だ。良く言えば、まっ白で人を疑うことを知らない。
まぁ僕もそんな所にホレてたんだが…
「んっ、あぁゴメン…突然だったから」
「アレ?もしかして一人?」
「そうだけど…」
「うわぁ、寂しいね〜」グサッ!!
僕の心に何か鋭いモノが刺さった。
昔から早希はグサッとくるような言葉をサラリと言う。
「さっき後輩に同じ事言われた…」
「あっ、ゴメンね傷付いた!?」
その言葉が僕の心に刺さったモノを更にぐりぐりと押し込む
「まぁアタシも今日は一人だから何も言えないけどねぇ」
えっ!?そうなの?
…って俺は何を喜んでいるんだ!!
今更会ったからどうなるわけでも…