双子の姉妹。 3-6
「麻琴」
何度も声をかけながらドアをノックするが反応はない。
やっぱり無視か…
「入るぞ」
決心して勝手に部屋に入った。
「……は?」
だがその部屋は、いつも見る麻琴の部屋とは大違いだった。
ぬいぐるみぬいぐるみぬいぐるみ。
部屋一面、ぬいぐるみだらけだった。
「ぶふっ!」
つい笑いをこらえきれず噴き出してしまう。
あんな気が強い麻琴が、こんなにぬいぐるみを…
しかもあいつ、もしかして俺に知られたくなくて毎日勉強の日はせっせとこの膨大な数のぬいぐるみを隠してんのか?
可愛いとこあんじゃん。
ってあれ、麻琴は……いた。
麻琴はベッドの上で寝息を立てていた。
かものはしの巨大なぬいぐるみを抱きしめて、制服のまま寝ている。
「…寝顔、可愛いな」
ふと、いつもの勉強机を見る。
「…ん」
机の上には大量のプリントが置いてある。
「…麻琴」
そのプリントは、過去の答案用紙だった。
「ちゃんと出題パターンを調べたのか…しかも、ノートにちゃんと書いてある」
一緒に置いてあったノートをパラパラと捲りながら呟く。
「…頑張ったな、麻琴」
俺は麻琴に布団をかけてやってから、静かに部屋を後にした。
階段を降りて、リビングに再び顔を出した。
「あら、どうしたの?振られちゃった?」
おばさんは俺が告白しに行ったと思ってたのか?これはギャグなのか?
「今日は帰ります、麻琴、疲れてるみたいなので」
「え?」
おばさんはびっくりしている。
「麻琴、部屋で寝てました。たぶん昨日は遅くまで勉強してたんだと思います。だから今日は休ませてあげてください」
「そう…話せなかった?」
「はい、でも、麻琴が頑張ってたみたいで嬉しいんです。きっと麻琴、成績上がってますよ」
俺はついニヤリと笑ってしまった。
「話はまたにします。じゃあ、おやすみなさい」
「ありがとう、俊哉くん」
おばさんも笑って見送ってくれた。
「うわ、さみー」
「あれ、せんせ」
家を出てすぐ、琴音に会った。
「おー琴音、楽しかったか?」
「あ、うん、せんせ、勉強は?」
「麻琴のやつ、寝てたから今日は休みにした」
「そう…あ、寝てたってことは…お姉ちゃんの部屋見た?」
「ああ見た。弱みをひとつ手に入れてしまったぜ」
「…あはは。あ、せんせ、これあげる」
「ん」
琴音は財布からプリクラを一枚差し出してきた。
「今日撮ったの、一枚あげる」
「おー、サンキュー。最近のプリクラはすごいな。こりゃ詐欺写真だな」
「あーいじわる!」
「うそうそ、やっぱり琴音は可愛いな」
俺はいつものように頭をぽんっと叩いた。
「……じゃあせんせ、気をつけてね」
「おう、おやすみ」
俺は琴音に手を振って、角を曲がった。
その後吐いた、琴音の溜め息に気付かずに。