双子の姉妹。 3-2
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「こんばんはー…」
とりあえず、効くかはわからないが酔い止めの薬を飲んで、できるだけ水をがぶ飲みしてきた。
まだ頭は痛いが、それ以外はもう大丈夫みたいだ。
「せんせ、こんばんは」
琴音が出迎えてくれる。
最近出迎えがなかったから、せんせは嬉しいぞ。
「せんせ、昨日もしかしてお姉ちゃんになにかした?」
あ、話があったから出迎えてくれたのね。
「直接なにかしたわけじゃない…むしろされた方だけどな」
「…よくわかんないけど、お姉ちゃん昨日の夜からめちゃくちゃ機嫌悪いから。ファイトー」
「…オー」
リビングに寄らず、そのまま二階に上がって左側のドアをノックした。
「……」
反応なし。
「麻琴、俺だけど」
反応なし。
「入るぞー」
それでも反応がないのでドアノブを回して室内に入った。
相変わらず、シンプルな部屋だな。
麻琴は机について黙々と勉強している。
「よーし、やるか」
「ストップ」
「は?」
いつものように麻琴の隣に座ろうとすると、制止が入った。
「それ以上、近付かないで」
「はぁ?」
どうすんだよおい。
「テキストのコピー持ってるでしょ。あたしは指示された問題を解くから、それ以上近付かないこと」
「…採点はどうするんだ?」
「このテキスト、模範解答ついてるから」
「……」
うーん、どうしたものか。
流石に今の発言はイラっとしたが。いちおう俺、こいつの先生だし。
だけどまあ、俺が怒らせてることに間違いはないからな。
「…ちょっと!問題出しなさいよ!」
麻琴はしばらく沈黙が続いたことに痺れを切らしたのか、こちらを見ずにテキストに視線を落としたまま言った。
「……問題はお前が決めろ」
「え?」
俺の言葉に驚いたのか、麻琴はついこちらを向いた。
「この試験範囲の中でお前の数学の教科担当はこういうとき、どの問題を試験で出すのか。そういうの、把握してないと成績は上がらないぞ」
「……」
麻琴の高校での成績は、なんとかこの一年で学年の半分くらいの順位を保つことに成功した。
俺が家庭教師になる前は後ろから数えたほうが断然早かったみたいだがな。
成績が悪かった原因は、もちろん勉強をあまりしないということもあるが、さっき言ったことも重要だったりする。
特に高校の教科担当っていうのは出題がパターン化されることも多いしな。
麻琴はその出題パターンをずっと掴めずにいたようだった。
今では俺が掴んで麻琴に出す問題を決めているわけだけど。
ちなみに妹の琴音は、もともといい成績だったが今では学年30位以内は常に入る状態だ。
あと言い忘れていたけど、二人は同じ共学の高校に通っている。
俺の通う大学からも近い。
「そ…そんなの…家庭教師じゃないわよ!」
「そうだ。だがお前が今俺に言ったことも家庭教師のすることじゃない」
俺はそう言って麻琴に近付く。
「なあ麻琴、普段のことなら、いくらでも嫌ってくれていい。残念ながら、今は年上も年下も関係ない状態だし。でも勉強くらいは、普段のことは一旦忘れて一緒に頑張ろうな」
俺は麻琴の頭をぽんっと叩く。
「…それが、俺の仕事だから」
それだけ言って、隣に座った。
「……わ、わかったわよ」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く麻琴。
まあ、とりあえずはよかった。