風邪のようなもの。-6
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葬式に来た女性がもしアンサンブル姿ばかりなら、きっとその先輩浮かばれないだろう。
そんなことを考えながら、私はグラスを磨いていた。
今日はもう店を閉めるべきだろうか?
いや、通りには先ほどから人がいる。
待ち人来ず……か。
それから……見知ったお客さんが一人、うん、入ってきた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
「へへ、調子いいな」
「今日はなんにします?」
「そうだね、とりあえず生中くれよ。あと、若鶏のから揚げね」
「はい。……オーダー入りました。若鶏のから揚げひとつ、お願いします」
厨房に声をかけ、ビールサーバーへ向かう。
生ビールは泡が命。
グラスを傾け、最初は少し。それから注ぎながらグラスを立てる中ほどまで注いだら一度止めて、最後にもう少し。
これが泡を長持ちさせる注ぎ方。
新人の頃は失敗するたびにそれを自腹で飲んでいたせいか、あまりビールは好きではない。
「どうぞ」
「おう、ありがと。あー最近寒いね。景気は悪いし、なんか楽しい話はない?」
「そうですね……」
私は少し考えたふりをしてから……、
「最近の話なのですが、アンサンブルっていうんですか? 喪服姿の女性をよく見かけるんです……」
このお客さんが店の外にいた女性とすれ違ったとき、理解した。
「顔色は青白く、唇は血のように赤くて……」
彼は誰かとすれ違ったことに気付いていない。
「へえ、美人なの?」
「いえ、顔はわからいんですよ」
おそらくは……、
そう、
風邪のようなものだ……。
完