風邪のようなもの。-4
――なんでです? 何かあったんですか?
我ながら間抜けなことを聞いていると思う。
超常現象といえるほどでもないが、あの不可解な女を見たあとでの異常なら、それはつまり……、
―― 今 お 前 の 後 ろ に あ の 女 が い る ! !
一瞬にして背筋が凍りつく。
いつのまに移動していたのか?
歩道を渡るときか?
俺の視界から消えたあとにこっそりつけられていたのならありうる。
理由はわからないが。
だが、そうだとして先輩が今気付く理由は?
それともずっと気付いていて言えなかったのか?
わからない。
いったい背後で何があったんだ?
教えてくれ。
背後にある気配が得体の知れない何かに変わると、恐怖が沸き起こり、そしてある気持ちが生まれ出る。
振 り 向 い た ら ?
それは好奇心。
――先輩、大丈夫ですか!
偽りの心配で俺は振り向いた。
黒の喪服女。
そして立ちすくむ先輩。
変わる信号。
赤から青へ。
女が手を伸ばしたとき、先輩は道路へ飛び出した。
けたたましいクラクション。
鉄の塊に弾かれ、歩道に叩きつけられる先輩。
それを見つめる女は……
意
外
に
も
無表情だった……。
〜〜〜*〜〜〜
「死神……ってやつですかね?」
「そうかもしれない」
話い終えた彼にチェイサーを差し出す。彼はそれをぐびぐびと飲むが、それはロックの合間に飲むという風ではない。
胸に詰まるものを飲み下すため。
そう感じた。
「悪いね、つまらない話をして」
「いえ、なかなか興味深い……」
私が思い出したのは定番の都市伝説。
交差点に立つ女だ。
自分にだけ見えるらしく、周囲の人は気にかけない。
なら自分も知らぬふりをすればよい。
けれど、すれ違い様に
――見えてるくせに……。
その話の亜種だろう。
「……できあがりぃ!」
彼が残りのボウモアを飲み干そうとしたとき、調理場の方から声がした。
テーブル席の料理が出来上がったのだろう。
私は彼に視線で一礼し、席を外す。