風邪のようなもの。-2
「……交差点の中央にいたんです。横断歩道とかないんですよ」
「へえ、それじゃあ非番の婦警が喪服で交通整理でもしてたんですかね?」
今日はよくしゃべる彼に私もちょっと冗談めかしに言い、含み笑いをする。
たいていのお客、空気の読める人ならば一緒に笑い、そして会話のキャッチボールが始まる。
「それならいいんだか……」
しかし、男は不安な方向へとボールを返す。
「その女、なんか色白っていうか青ざめてて、なのに唇だけやけに赤くて……」
「美人でしたか?」
「いや、顔は見えなかった。けど、最近よく見かけるんだ」
ようは交差点の中央に立つ喪服の不審者。
年の瀬になればそういう人も増えるという統計もあるらしいが、もしかしたこのお客さんも日ごろの激務に……をやられているのかもしれない。
「最初、先輩から聞かされたんだ。」
「……ああ、その女性のことですか?」
この男と会話が成り立ちにくいのは、おそらく話の組み立てかたが下手だからだろう。
話したいが、伝わらない。こういう人はたまにいるが、静かな客という印象は改めるべきかもしれない。
「先輩がさ、最近になって喪服女を見るって……」
「それで、お客さんも見るようになったと?」
「ああ、そうなんだ」
まさか怪談の類とでもいうのだろうか?
そうだとしても、話が断片的で全体が掴めない。
「なんだろうな……、すいません、アーリータイムズ、水割りで……」
「あ、はい。……そういえば最近スコッチウイスキーを仕入れたんです。ボウモアというんですが、試してみませんか?」
「ボウモア? そうですね、なら……ロックでお願いします」
ボウモア。
本当は私のプライベートで用意していたのだが、癖の強い香りにどうも食指が動かない。
ロックグラスに氷を適量。マドラーでかき回し表面を少し溶かす。
グラスの底によりやや上、平行に人差し指……、いや、中指を並べてゆっくりと注ぐ。
サービスといえばそうなるが、ちょうどよい廃品処理。
それに、おきまりのパターンだと彼は水割りを最後に、勘定を済ませてしまう。それではこの話のオチにたどり着けずじまい。
それは気持ちが悪いというか、しっくりこない。
「どうぞ、ボウモアのロックです」
「へー、すごい香りだね」
だから、引き止めることにした。
「で、その女性を今日も見たんですよね? 先ほどですよね? いったいどこで?」
ピート樽の芳醇な香りに蒸せるお客さんを前に、私は話を聞きだそうと掘り下げやすいように言葉を選ぶ。
「ああ、この店を過ぎる頃だったんだ。家に帰る途中だったんだけど、少しさきの自販機あるじゃない?」
「ええ、ありますね」
「そこに居たんだ」
「それで怖くなってうちに引き返したと」
「はは、面目ない。もしかしたら連れてきたかもしれないな」
「ご新規一名追加ですか?」
私が笑うと、今度は彼も笑ってくれた。
「なにやら面白そうですね、詳しく聞かせてもらえますか?」
「いいかい?」
「ええ、胸にしまっておくと他のものが入りませんよ?」
「そうかい、それじゃあ……、