遠恋ーえんれんー 蓮side1-3
「茜‥?」
「わかってる。だから言わないで。聞きたくない。」
フォークをお皿の上に置き、俯く茜。
「‥きっと茜が知らないことだと思うから聞いてくれよ。これはどうしても言わなきゃいけないことだから。」
「嫌だよ。聞いたら私が納得しなきゃいけなくなる。別れなきゃいけなくなる。そんなの嫌だ。嫌だよ。なんで美音なの?可愛いから?私がわからないと思った?」
話すうちに興奮してきた茜は、言葉の最後には叫んでいた。
震える息を飲み込むと、絞るような声で茜は僕に問いかけた。
「‥一番近くにいた私が気付かないと思った‥?」
ポタポタと落ちる涙。
静まる店内。
集まる視線。
茜の言葉。
すべてが僕を責める。
いつから茜は知っていたのだろう。
どうして気付いたのだろう。
「ごめん、ね。」
茜がポツリと落とした言葉は謝罪の言葉。
そうだ。
いつだって茜は謝る。
どんなに僕が悪くても茜が謝る。
ここで僕がいつもみたいに彼女に甘えれば丸く収まる。
初めから何もなかったように、丸く収まる。
僕が謝って、冗談だよって言えばなかったことになる。
美音への想いも全部なくなる。
早く言うんだ。
震える唇を無理矢理開いた。
「‥ごめん。
‥‥‥だけど、僕は、美音が、好き、だ。」
自分自身で確かめるように言葉を吐く。
僕は、美音が、好き、だ。
簡単に潰せる想いならこんなに悩んだりしない。
茜の歪んだ顔をまっすぐに見る。
付き合ってから初めて彼女と正面から向き合った気がする。
付き合って2年間。
一体何を見てきたのだろう。
美音のことなら、顔の黒子の位置、伏せた睫毛の長さ、ツンとした鼻先、目を閉じてもすべて思い出せるのに。
茜は左目だけ奥二重なんだな。
右目はばっちりした二重なのに。
鼻筋も通ってる。
綺麗だな、茜は。
「いつから‥?」
茜がゆっくりと口を開く。
掠れた声が痛々しい。