多分、救いのない話。-9--7
『あの人と火口は、私に恋愛感情を抱いていたみたいです』
――随分、他人事みたいに言うんだな。
『そうですね。当時も知ってはいましたが、私は“そういった感情がない”ので』
“当時も知ってはいた”
“そういった感情がない”
つまり、その事件が起こる前から、“そういった感情がなかった”。
きっと、全ての前提が間違っている。
《怪物》が産まれたのは、慈愛を宿した時ではない。
《怪物》を決定的にはしただろうが、しかし、始まりは決してそこではない。
だとするならば、それならば。
自分が原因だからと《痛み》を甘んじて受け止めていたこの子の苦悩は。
まるで、無意味なことになってしまうのではないか――?
「お母さん」
子は母に願う。
「もう少し、待ってください。必ず、必ず説得するから」
母は子に微笑む。
「慈愛のお願いなら、勿論聞くわ。お母さん、慈愛の為なら何でもするんだから」
子の繋がりを感じられなくなった母は、それでも微笑む。
自分がわからなくても、子がわかれば充分なのだ、と。
だが。
母娘の日常を脅かす者が現れるならば。
《怪物》の欲望は、必ずそこに向かうだろう。
子以外に我慢する理由など、《怪物》にはないのだから。