胎児の遺言-8
「産めよ!」
『ヤダよ!』
パシッ!!
貴幸に頭をはたかれた。
『お前は、ホントに素直じゃねぇな…』
そんなに強くはたかれた訳じゃないから、痛くはなかったけど…
何となく儀式のように、頭をさすりながら見上げた先に、貴幸の顔があった。
素直になれないのは誰のせいなんだよ!
私はいつだって、貴幸とちゃんと向き合いたいって思ってきたよ!
心の中ではそう叫んでいたけど、本人を目の前にしたらやっぱり言えない。
貴幸の言う通り…私、素直じゃないから―――
体は立派に大人で、妊娠は出来ても、心はまだまだ子供ってこと?!
―――アンバランスな私。
今まで散々、親にも世間の大人達にも反抗して、大人振ってきた自分の未熟さを、この時痛いほど感じた。
大好きだった貴幸に、スキのひと言すら言えないなんて。
『俺…はたち前だったら、産めなんて言ってなかったぜ』
たしかに、最初から『堕ろせ』と言われるよりはマシだけどさ…
育てる責任も覚悟もないのに産むほうが、子供に失礼じゃないかな?
私はそんな風に考えてた。
目の前のこの人が、好きで好きでしょうがなかったけど、だからと言ってこの先うまくやっていける自信も保証もない。
このあと、私が病院に行き、妊娠が確定したら、又2人で会うことに決めた。
帰りの車に乗り込む時、貴幸に肩を抱かれ、体を求められた。