胎児の遺言-4
テルと会ってる時間だけが私の幸せの時間だった。
テルの細くてきれいな手と手をつなぐのが好きだった。
ごつごつ骨ばっていて固くて、指が長くて、いつも爪が短く切り揃えられて。
そんな手に肩を抱かれると、それだけで夢の中にいるみたいに身体がふわふわした。
カラオケに行ってテルの歌声を聞くのも好きだった。
テルは自分で歌うのが好きって言うだけあって、澄んだきれいな声をしていた。
友達とカラオケに行く時の私はマイクを取り合ってまで歌いたがるくせに、テルと一緒の時はテルの歌を聞いてるだけで満たされた。
時々テルからリクエストがある時だけ、私はマイクを持って歌った。
テルは時々お兄ちゃんや会社の車を借りてきて、私をドライブに連れて行ってくれた。
その運転する時の、抱え込むようにして持つ独特のハンドルの持ち方も、私は好きだった。
もちろん運転する時の横顔もすごくきれいで、見るたびに私はドキドキしてた。
テルとはその車で、よく夜の公園にも行った。
そこは一面に海の見える公園で、空には飛行機が飛んでいるらしき音と、赤い小さな光が見えた。
飛行場が近いのだ。
でもこの公園に来るのはいつも決まって夜だったから、私は飛行機が飛ぶ姿を見たことがない。
ただ何をするでもなく、煙草を吸うテルの横で鉄柵にもたれながら、テルと並んで海を眺めた。
季節は夏の少し前、海風に髪が優しくさらわれるのが心地よかった。
テルの腰を抱く手が慣れていて自然で、年が2才しか違わないのにすごく大人っぽいと思った。
何度目かのキスの時、いつもはテルがする舌を吸う仕草を私が真似たら、「生意気だな」って笑ったテルに、思いきり舌を吸われ返されたことがある。
それは本当に根元から舌が引き千切れちゃうんじゃないかと思うくらい強い力で、私は半泣きになりながら「うーうー」呻いて抵抗した。
やっと離してくれたテルは私を見つめて優しく微笑み、腕の中に私を包んでくれた。
そんな風に時々意地悪なことをするテルでさえ、私は嫌いになれなかった。
普通のカップルみたいに週末にデートしたこともなければ、会うのは決まって平日の夜だけ。
それも突然テルに呼び出されて出て行く関係だったけど、それでも私はテルといられることが嬉しくて、断ったことなんて1度もない。
みかちゃんはそんな私を見るにつけ「遊ばれてる」と言った。
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