胎児の遺言-17
―――なのに時々、無性に貴幸に逢いたくなる。
あれから、20回もの夏を過ごしてきたと言うのに、貴幸と過ごした、たった1度きりの夏の記憶が、今でも私の胸を締め付ける。
もう、現実に貴幸と逢うことは2度とない。
なぜなら、彼は10年前、交通事故でこの世を去ったのだから…
だけど、はたちの貴幸は私が死ぬまで、この胸の中で生き続けるだろう。
あんなどうしょもない奴のことを、なぜこんなにまで忘れられないのか?
それは多分、あの子が残したたった1つの遺言―――
ママ…
パパトボクヲ…
ワスレナイデ―――
20年前のあの夏の1ヵ月間…
私達3人は…
間違いなく家族だった。
胎児の遺言 了