胎児の遺言-16
急カーブに差し掛かかった時、車輪の軋む音と同時に車体が外側に傾いた。
あっ―――倒れる!!
―――と思ったけど、その時は何とか持ち直した。
その後、更にスピードを上げた列車の先には道がなく、私の目の前には突然赤い岩の壁が現れた!
今度こそ終わりだ!!
ンッ―――覚悟を決めたその瞬間、私はパッと目覚めた!!
それを待ち構えていたように、まだぼやけたままの私を、体格のいい看護士は軽がると抱えあげ、休息用のベッドへと移した。
私はその看護士にトロッコ列車の話をした。
「人によってはジェットコースターの場合もあるみたいよ」
…看護士は何でもないことのようにそう言った。
その瞬間、私の背筋をゾワゾワと例え用のない悪寒が襲った!
∞∞∞
6時間おきに飲むと言う薬を、お土産のように大量に持たされ、私は家に戻った。
自分の部屋に入ると、布団がピシッと敷かれてあった。
几帳面の母親が、仕事に出る前に敷いておいてくれたのだろう。
母親は、中絶してきた娘が寝る布団を、いったいどんな気持ちで敷いたんだろう?
その布団に、重だるい体を横たえながら、ふと両親に謝りたい気持ちになった…
∞∞∞
あの夏から20年が経ち、私は正真正銘の大人になった。
もちろん、今ではもう大人の振りをすることもなく、あの頃よりも世の中が生きやすい。
今の私は結婚していて、妻であると共に、2人の子供の母親でもある。
そして、何の不満もなく幸せな毎日を送っている。