胎児の遺言-15
∞∞∞
前開きの手術衣に着替えた私は、体格のいい看護士に手を引かれ、手術台へと上がった。
いよいよこの時が来たんだ。
不思議なことに、怖さも罪悪感も感じなかった。
ただ…独りぼっちの淋しさだけは、消すことが出来なかったけれど…
―――今はただ、普通の高校生に戻りたかった。
手術台の上の、私の開かれ片方ずつの足に、看護士は白い布のカバーを掛け、台座にそのカバーごと固定した。
私の両足が、閉じることが出来ないように固定されると、インテリ風ドクターがどこからともなく歩み寄り、私の右腕の静脈に注射を打った。
その注射が何だかやけに痛くて、私は思わず腕を引っ込めようとした。
その途端、体格のいい看護士とニワトリみたいな看護士が、2人がかりで私を押さえ付けた。
痛い注射のあと、インテリ風ドクターに、ゆっくりと数を数えるように言われた。
1…2…3―――6か7くらい迄は、どうにか数えられたけど、その先は覚えていない。
次に気が付いた時は、股の間に、冷たい金属の長い棒が突き立てられていて、グングン…と体の中の臓器を引っ張られているような感覚があった。
ジャラジャラと、鉄の鎖をたぐり寄せているような音もしていた気がする。
でも、それが何の音だったのかは定かではない。
私はただ無意識のうちに『痛い痛い…』と身をよじっていた。
麻酔薬の名前だろうか?
何とかと言う薬品を…「追加しろ!」とインテリ風ドクターの口から指示が飛んだあとすぐ、私はまた眠りの世界へと戻っていった。
―――私は夢の中で、暴走するトロッコ列車に乗っていた。
トロッコ列車は、私1人を乗せ、坂道をガタゴト、ガタゴト車体を揺らしながら進む。
暗くホコリっぽい、赤土の壁の間を縫うようにして、地下トンネルを深く深く下っていく。