胎児の遺言-14
それから数日後、父親が貴幸の母親に連絡を取った。
そして、まもなく貴幸が12万の入った封筒を手に、私の家を訪れた。
1枚残らず、手が切れそうな新札だった―――
∞∞∞
貴幸は、私の父親と2人きりで話をしたあと、私の前に姿を見せた。
貴幸は謝る訳でもなく…
私はそんな貴幸を責める訳でもなく…
どこまでも、どこまでも、不器用な2人だった。
お互いに会話も無いまま、ただ貴幸を見送る為に、最寄りの駅まで付き添って歩いた。
駅に着くと、貴幸はただ黙って私の肩に手を置いた。
お金も受け取ったし、もうこれきりで終わりかと思ったら、急に淋しさが込み上げてきた。
「一緒に来いよ!」
静かにそう言った貴幸の言葉に、私は黙って頷いた。
貴幸の家の最寄り駅まで、ただ2人で黙って、一緒に電車に揺られていた。
このまま、永遠に時が止まればいいのに…と思った。
でも現実は、20分もしたらあっけなく目的の駅に着いてしまい、それと同時に、これ以上貴幸といる理由も無くなってしまった。
お互いに、何となく気持ちに収まりがつかず、改札を出たところで、しばらく無言で向き合っていた。
しばらくすると、貴幸はくぐもった声でひと言「じゃーな」と言うと、淋しそうに瞳を落とし、人混みの中へと消えた。
∞∞∞
手術当日の朝、母親から1人で大丈夫か?と聞かれた。
母親は仕事を持っていたし、何より付き添ってこられて、あれこれうるさく世話を焼かれるのが嫌だった。
だから、私は何でもない風を装って、いつも通り家を出た。