胎児の遺言-13
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森脇さんは、私の話を黙って全部聞いたあと、私の体をとても心配してくれた。
森脇さんに、何かして貰おうと思った訳ではなかった。
今はただ、私の話に耳を傾けてくれる人が居るだけで、いくらか救われた気持ちになった。
森脇さんは1枚の名刺を取り出し、裏にプライベートの携帯番号を書き込むと、「何かあったら電話しろ!」と、私に手渡してくれた。
私も森脇さんに連絡先を教え、その夜は別れた。
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結果的に、ひと月後森脇さんは私に電話をくれた。
「ずっとお前のこと気になっててな…」
その時は、もう全てが終わったあとだったから…
『うん…今はもう大丈夫だから…』
…って笑顔で言えた。
「そんならいいけどさ。もう無茶はすんなよ!」
それだけ言うと、彼は電話を切った。
たまたま旅先で知り合った人ですら、こんなに優しいのに、現実はうまくいかない。
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そのあと、貴幸に電話を入れたけど、やっぱりつながらなくて、気分は落ち込む一方だった。
爽やかな夏の夜風が、優しく私の髪を揺らし、頬を伝った涙を乾かしてくれた。
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日常に戻った私は、結局自分の力ではどうにもならなくて、母親に泣き付いた。
母親には、1番借りを作りたくなかったのに…
私が事情を話した時の母親との会話は、一語一句今でも鮮明に覚えているけど、ここでは触れたくない。
その夜、私が見ている前で、母親から父親に事情が話された。
父親は私の顔を見ることもせず、ただただ押し黙ったままだった。