胎児の遺言-12
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それ以来、貴幸とは連絡が取れなくなった。
毎日毎日電話をしたけど、何度掛けてもつながらない。
私は焦った―――
私には、12万なんて大金、用意出来っこなかったから。
しかも、こんな時だと言うのに、数日後には旅行の予定が入っていた。
花梨と、2泊3日で西伊豆に海水浴に行くことが、ずいぶん前から決まっていた。
貴幸のことも気掛かりだったし、果たして妊娠中の体で、海水浴などしていいものなのか?
私には見当も付かなかったけど、家に居ても気分が滅入るだけだったから、結局、予定通り旅行に行くことにした。
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旅先の遠浅の小さな海岸で、花梨と浮き輪に掴まり、波と戯れ遊んでいると、ジェットスキーをしていた、2人組の年上男性に声を掛けられ合流した。
初めてジェットスキーに乗せて貰って、私と花梨は大はしゃぎだった。
時間が経つのも忘れ、私達は彼らと夢中になって遊んだ。
その夜、再び砂浜で待ち合わせ、4人で花火を楽しんだ。
夏の夜のわりには、海からの乾いた風が心地よくて、いつまでもこうして楽しい時間を過ごしていたいと思った。
花火が終わったあと、自然に男女のペアに別れた。
私と2人になったその人は、森脇拓海と言う名前だった。
年は27才で、マリンスポーツの関連商品を扱う、小さな会社をやっていると言っていた。
背が高く、目鼻立ちがはっきりして、陽に焼けた肌が眩しかった。
はきはきと自信を持って話す森脇さんは、いかにも仕事が出来る、男のオーラが漂っていた。
私は、何となくこの森脇さんに、身の上話をしてみたくなった。