夫の見た夢-1
ある晩、夫が夢を見た。
その夫が明くる朝、朝食のテーブルに付くなり夕べ見た夢の話を始めた。
「何でだかわかんないだけどさ、お前が俺の会社の奴に弁当作ってるんだよ」
夫はさも不機嫌そうに、私に向かってそう言った。
夢の中の話なのに、何故だろう、私は聞いていてひどく居心地が悪い。
まるで夫の会社の人と何か関係があるみたいに錯覚する。
もちろんそれはないが。
「何なのそれ、変な夢」
私は居心地の悪さが顔に出ないよう気を付けながら、わざと明るくそう言った。
「知らね、それでお前と喧嘩したんだよ」と夫。
夫は視線を軽く逸らし、ぼそりとそう呟いている。
時々、本当に時々ではあるけれど、夫はこういう形で私に釘を刺す。
もちろん私には浮気の心当たりなどないけれど、それでも幾分は気持ちがピリッとする。
これはやきもち妬きな夫ならではの、不器用な愛情の伝え方なのだ。