イケナイ関係!!-1
地方都市と田舎を結ぶローカル線。
帰省のピークにはまだ早く、車内に人はまばら。
そんな中、楠木翔太は一人窓の景色を見つめていた。
街が遠ざかるにつれネオンの光が消え、代わりに木々が増える。
曇っていた空はちらほらと雪を降らせ、田んぼが広がるころには白が勝っていた。
――オセロみたい。
まだ幼い顔立ちの翔太は年相応の感想を抱く。
毎年、楠木家では大晦日は祖父母の家で過ごすことになっている。
例年なら家族そろって向かうはずが、今年は父が年内に休みが取れそうになく、正月から合流する予定だった。
けれど、孫に会いたい祖父母は翔太だけでもとせがみ、翔太自身、もう中学生なのだからと言い出す。
結局言いくるめられる形で母、加奈子も納得し、逆に翔太から夫婦水いらずでと揶揄されていた。
――お年玉、くれるかな? それと、お小遣い。
翔太の目的はお年玉とお小遣い。きっと孫に甘い祖父母のことだ、一人で会いに来たというだけで前年の倍はもらえるだろう。
そう思えば、一人で過ごす二時間半の電車道も苦にはならなかった。
――そういえば、元気にしてるのかな?
ふと思いつくのは田舎に居る元気な親戚。
今年のお盆は会えなかったから正月以来の一年ぶり。
――はは、心配する必要なんてないか。
――
風澄村駅に着いたらバスに乗り換えて二十五分。けれど、深雪のせいでダイアは乱れ気味。駅員に聞いたところ「臨時バスが出るから、それまで待合室にいたほうがいいよ」といわれた。
待合室には昔ながらのストーブがあり、それを囲う形でお年寄りたちが世間話をしていた。
最初、そこで暖をとりながら時間をつぶそうとしたが、「真澄さんとこの……」
「気の毒ににぇ……」と楽しそうに他人の不幸話をする声が耳に入ってくるせいで居心地が悪い。
空気は美味いが見るものもない。これといって娯楽施設のない村は退屈そのもの。
そのせいか、噂話が生々しくなりやすい。
――聞きたくないよ、そんなこと。
耳をふさいで外に出る翔太。
噂は嫌い。
特に人を貶めるうわさは。
――あいつ、元気かな。
小学校最後にしてできた友達は、不登校を繰り返し、その後家庭の都合で転校していった。
そこにあるのは後悔の念。
彼の苗字が変わったことを哂い、そして喧嘩。
その後は大きなお友達のおかげで仲直りしたものの、お別れの席でも謝ることができなかった。
――金あればいけるんだよな。
住所は知っている。電話番号も知っている。
だから会いに行ける。
きっと彼なら「そんなことぐらいで来るなよ」と笑うだろう。
けれど、会って、直接言いたいことがある。
――友達、なんだよな。うん、大切な。
最近になって理解できてきた大人の世界。
週刊誌の見出し程度でしかないが、それでも両親の晩酌の会話を聞いていれば世の世知辛さを知ることもできる。
おそらくは友の家庭でも……。
ただ、ひとつ思春期の彼が理解できないのは、大喧嘩したあとの両親。
夜は二人とも別々の部屋に行くはずが、朝は一緒の布団におり、しかもお互い上機嫌。
小学校の頃、それをクラスの子に聞いたら男子には「そのうちお兄さんになるんじゃね?」と言われ、女子には「死ね」といわれた。
翔太にとっては未だに理解できない楠木家のなぞだ。