イケナイ関係!!-3
「しっかし、一年ぶりじゃな」
「そうだっけ? あ、お盆のとき会わなかった……」
「うち、合宿いっとったし、お前、うちのこと待たんと帰ったから、この薄情者」
「薄情って、そんなに由梨絵さん、俺に会いたかった?」
「アホ言うな、うちに挨拶無しってのが気に食わんのじゃ!」
「はは、そうっすか」
しかし……、
――由梨絵さん、なんか綺麗になってない?
言葉に出せない気持ち。
ちょうど一年前の暮れに会ったときはあまりの寒さに鼻をぐずぐず言わせていた由梨絵はクラスの女子よりも野暮ったく、田舎くさく、服装も年寄りくさい色のセーターにジャージのような綿パン。
化粧気のないすっぴんの肌は年相応きめ細かくすべすべしていたが、冬の寒さでりんごのように真っ赤になっていた。
極めつけは輪ゴムで止められた髪。
せめて櫛ぐらいいれろと、子供ながらに思ったほどだ。
が、今の由梨絵は違う。
小太りだった彼女だが、脚に向かうにつれて細くなり、そのくせ、お尻はぷりっと丸みを帯びている。
胸元はダウンのもこもこした素材のおかげでよく見えないが、重ね着してもわかるぐらいにふくらみがある。
とくに変わったのが顔の雰囲気。
野暮ったい太眉毛はいつの間にか細いそれに変わり、まつげもパッチリと整えられている。
唇はこの寒さに負けずピンクのリップが艶やかな色合いを持ち、頬の赤みは残るものの、はにかんでいるようで可愛らしい。
――由梨絵さん、美人になった?
自分より二つ、三つ年上の彼女。たとえ田舎であろうと、すでに彼氏の一人や二人いるのだろう。
そう思うと、思い出の中のみすぼらしい由梨絵が懐かしくなるから不思議だ。
かつては原っぱを二人で走り、蜘蛛に怯える由梨絵を庇い、すりむいた膝からにじむ血に怯える自分を慰めてくれた、そんな関係。
おそらくはもう二度と戻らない時間……、
「一人だしょ? おとんとおかんは来れないんだっけ?」
「父さんの仕事が片付かないからって、俺一人で来たんだ」
「ふーん、えらいね」
よしよしと頭を撫でてくる彼女の手を払い、嫌そうに睨み返す翔太。
まだ彼女の方にはどこか名残があるらしく、それはつまり翔太にはそれほど変わりがないということの裏返し。
「子供扱いするなよ。そりゃ、由梨絵さんのほうが年上だけどさ」
「はは、まだドーテーのくせに何いってんだか」
「ドーテー?」
「なんじゃ、知らんのか? まあええわ。そのうち、教えたる」
「また子供扱いする」
「それより、今日、おまえんところのじじばば、居ないぞ?」
「え? だって今日来るって手紙で書いたし、メールもしたよ?」
翔太は不安になり、携帯を取り出し送信メールをチェックする。そこにはしっかりと今日の日付で向かうことが示されており、送信先も祖父の携帯のアドレスである。
「あんなぁお前、年金もらっとる爺さんがメールなんてしゃれたモンわかるわけないじゃろ? つか、手紙、こっちの家にきてたぞ?」
「え?」
「ほれ」
由梨絵が差し出す手紙には見慣れた自分の小汚い字。楠木信一郎様へと祖父の名前が掻いてあるが、あて先は確かに由梨絵の家のもの。これでは郵便局も困るだろう。