喧嘩-1
ある朝、夫と喧嘩をした。
原因は子供に関する些細なことがきっかけだった。
いつもならこんなにこじれることはないのに、なぜかこの時はこじれてしまった。
一瞬にしてあたりを不穏な空気が包む。
どんよりと重たいそれは、次第にお互いの呼吸までも浅くする。
私達夫婦はめったに喧嘩をしない。
だからこうなるとお互いどうしていいかわからず、余計にたちが悪いのだ。
でも夫の性格上自分から謝ることはないので、事態を収拾するには私から謝らなければならない。
そんな時、つくづく私は損な役回りだなぁを実感する。
だいたい喧嘩はお互いさまなのだから、どっちか一方が謝るなんて不公平だ。
そんなの5才の子供だって知っているはずなのに。
バタンッ!!
でも事態は見る間に悪い方へと急変していく。
ドアに八つ当たりした夫が部屋から出ていった。
さっきまでの平穏を取り戻すにはどうしたらいいだろう。
私は脱水が終わった洗濯物を持ってベランダに出た。
気分はこの上なく憂鬱なのに、頭上に広がる空はイヤミなくらいに青く澄み渡っていて美しい。
そんな空を眺めていたら、なぜだかふいに泣きたくなった。
「さっきはごめんね」
ぐずぐず鼻を啜りながらその言葉を言う。
不本意だけど仕方がない。
しかしまだ怒っている夫は私と口をきいてくれない。
それでも彼がもう私を許していることが私にはわかる。
私が結婚から学んだことは「夫婦はわかり合って生きていく」のではなく「許し合って生きていく」のだということ。
そうすれば毎日笑って暮らしていける。
私は普段、夫の大部分を好ましいと思って暮らしている。
私にはない冷静沈着さも思慮深さも、偏屈なところでさえ嫌いになれない。
そんな夫は果たして私のことを好きでいてくれているのだろうか?
あとでいつもの夫に戻ったら、こっそり聞いてみようと思う。
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