逃げ出しタイッ!?-54
「そう、だったんだ」
「もう、さっきから薄いぞ! あー憎たらしい! こいつめ、こいつめ!」
そしてまた両頬をつねられること数回。
その痛みは、紛れもなく現実の証。
「あ……、えっと、もうそろそろ授業戻るわ」
「え? ちょっと早苗?」
またも現実は急展開を示す。
早苗は外を見つめたと思うと、急にきびすを返し、すたすたと昇降口を後にする。
「けど、たまにメールでも電話でも、頂戴ね! えっと、さぁよ……じゃない、またね!」
唐突に去っていく早苗に困惑しつつも、もう未練もないと、靴を履き替える雅美。
荷物を降ろし、上履きを無造作に袋に入れる。
――もう使わないしね、汚れてもいいや。はは、なんか私みたい。
「それじゃ汚れるよ。ほら、俺がもってやるから……」
そしてまた声。
今度はつねる人が居ないのだが?
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「いいよ、そんなに重くないし」
「いいって、持たせろよ」
乱暴な言葉と乱暴な態度。
けれど、怖くない。
「ね、授業は?」
「停学」
「不良だ」
「しょうがねえだろ、俺だって馬鹿やったんだから……」
「うん」
隆一は荷物を持つと、そのまま勝手に校舎を出る。
「もしかして、照れてる?」
新しい見送り人に雅美は忙しいと思いつつ、上履きを手に持ってそれを追いかける。
「違うっつうの。たださ」
「だから、なによ」
「後悔するよって、メールが来て」
先ほど似たような言葉を聞いたが、送り元はおそらく共通の知り合い。
「日曜さ、早苗のことふったんだって?」
「ふった? 俺が?」
「うん。隆一君って酷いね」
「俺はそんなこと。だって、雅美ちゃんが……」
「私が?」
「好きだから……って、さっき聞いたんだろ? 早苗の奴、おしゃべりっぽいし」
「うん」
「なんだよ、雅美ちゃんだってやな感じじゃん」
「そだね」
「ああ。けど、やっぱり、雅美ちゃんのことが好きで」
「ふーん」
男子にとっては大切な告白なのだが、すでに耳にしていた女子にはそれほどの感動もないらしい。
「ふーんって、それだけ?」
「うん」
それとも、すでにあきらめの境地に立つためか?
「なんでだよ。俺は、雅美ちゃんのこと!」
「……やっ」
荒々しい声にびくりとする雅美は屈みながら頭を抑える。
それが何を示しているのか、隆一にも理解できた。