逃げ出しタイッ!?-51
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昇降口には誰も居ない。
もう二時限目が始まっている時間であり、当然のこと。
退学届けはすでに提出している。
もう学校に籍はない。
私物は全て生徒指導室にある。
後藤には車で送ると言われたが、断った。
顔色を覗かれながらなんてまっぴらだ。
これ以上、人を腫れ物のように扱うな。
私は、もういいんだ!
そんな空元気を振り回し、生徒指導室に向かった。
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荷物など、どれもいらない。すくなくともこれからの生活には必要がない。
制服も体操着も、ウインドブレーカーもいらない。
ここから家のゴミ箱に移すだけのこと。
それこそ、焼却炉に捨ててくれたほうがありがたい。
未練もないものだからと、ビニールのゴミ袋にまとめて入れる。
季節をひとつはやめたサンタクロースは相模原市の指定のゴミ袋を背負う。
「……ばっかみたい」
来る必要も無かったと思いながらも、本当は、ひとつ期待するぐらい許されるべき、と打算のあってのこと。
だからこそ、遠回りして昇降口に向かったわけだが……。
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「待ちなさいよ」
期待した声ではないが、知っている声。
今はまだ授業中。
なのに、どうしてその子は?
「どこに行く気?」
「どこって、帰るんだよ?」
無表情で振り返る雅美にひるむ早苗だが、なぜか彼女は怒り心頭といった様子。
彼女に嫌われることなどしていないはず。
なのになぜだろう?
友達の見送りにしては、悲しむそぶりも見えない。
「帰るって、学校は?」
「辞めたもん。通えるはずないじゃない」
「……」
「じゃね。ばいばい」
できるだけ感情は押し殺し、それでも、もうこれで終わりなのだという意志をこめて。
「雅美、卑怯よ!」
しかし、腕を掴む早苗はまったく予想できない言葉を投げてくる。
「なにが?」
どこか呆けたように答えてしまうのは、早苗の怒り顔と、赤くなりかけた目を見たから。
「だって、なんでよ。アンタばっかり!」
「私ばっかり何?」
「あたしの隆一君! 返してよ!」
「返すもなにも、早苗のなの? ていうか、私のじゃないし」
そう、これは現実。夢の中のことではないのだから。