逃げ出しタイッ!?-50
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お金は必要だ。
制服、体操着、鞄に靴、他にもある。
新しく買いなおすものが。
転校するのだから当然だ。
今までのものを全て、忘れるため、
つまらない悪夢を見ないため。
なぜなら、これからも自分は生きるのだから。
そんな意思が、雅美の中にあった。
想い人と、幸せな生活。
夢の中ならばできる。
夢を見るには、眠らなければならない。
眠るには、生きなければならない。
だから、まだ死にたくない。
夢が覚めるまでは、死ねない。
その程度の希望で、その希望をかなえるために、まだ生きる。
もし、夢を見なくなったら?
そのときは………………、
*−*
歩道橋を渡って地下鉄へ。地味な茶色の定期入れは来週で中身ごとお払い箱。
プラットホームであくびする人に、携帯電話片手に必至に謝るサラリーマン。
普段より一時間ずらしてのオフピーク通学。
そのせいか、周りを見る余裕があった。
いつもの通学路も今日で見納め。
学校へ行くのはこれで最後。
母が代わりに行く、もしくはついていくときかなかったが、パート先でインフルエンザがはやっているらしく、急遽出勤要請がきた。
それならば日をずらしてと食い下がっていたが、雅美の早く終わらせたいという希望に頷いてくれた。
あの日から変わったこと。
それは、父の帰りが十分少々早くなったことと、夜、なぜかベッドに智美がもぐりこんでくること。
鬱陶しいからやめるように頼んでも、彼女はさびしいからと譲らなかった。
最初、気を遣われるのが嫌だった。
もう自分は大丈夫。
だから気にしないでほしい。
そう願っていたのだから、家族の暖かい行為も、どこかとげとげしく対応してしまう。
だから、母を拒んだ。
一番、無理、わがままを言いやすい母に、そのとげが向かっただけのこと。