逃げ出しタイッ!?-49
「雅美ちゃん。あなた、気づいて、あげられなくて、お母さん、母親失格ね」
母のこぼす涙には胸が痛くなる。自分のせいではないとはいえ、それでも大切な人を悲しませてしまったのだから。
「息子たちが、本当に……、申し訳ございません」
知らない三人と知っている二人がそろって頭を下げるが、雅美にしては実感がわかない。
そして、また井上と後藤が頭を下げる。
――あ、そっか。こっちは現実なんだ。
それならばいっそ、目覚めなければ良かった。
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最初、うらぶれていた山形昇に声をかけたのが田辺悟。
強引に行為に及び、その様子を動画に納めれば……。
少しずつ馴らしていけば、調教していけば、きっと自分から応じるようになる。
きっかけを与えるだけだと偽り、篭絡した。
達郎をそそのかしたのは、その場の思いつきで、彼女を絶望させれば反抗する気持ちを奪えると見越してのこと。
その目論見は見事に当たり、昨日の日曜には、彼女の方から性器を見せ付けてきた。
だが、誤算があるとすれば、達郎の中で育った罪悪感。
それは被害者を救うものではなく、さらに絶望へと追い詰める行為でしかなかった。
むしろ、巻き込まれたと言い張れる彼なら、彼の中だけでは自分を救う行為になったのかもしれない。
また、罪を明らかにするという、たかがしれている結果を生んだだけ。
彼らの父親は何度なく頭をたれるものの、雅美の心はここにあらず。彼女の父はいくらか落ち着いた様子だが、たまに眉間に皺を寄せると、すぐにでも爆発しそうなり、母がそっと寄り添い、それを慰めていた。
そして、包まれた束。
弁護士バッチをつけた清潔そうな男性が手渡してきた。
相場はわからないが、過剰というほどでもない額。
父は謝る前に金銭を包む田辺家に対し憤っていたが、雅美はそれに反対した。
もう、そっとしておいてほしい。
それだけ言うと、父はふるふると震え、何かいいたそうにしていたが、母に頭を下げた後、寝室に向かった。