逃げ出しタイッ!?-47
『ね、やっぱり隆一君、雅美に気があるんだよ。あーん、いいなあ。あたしも好きだったのになあ』
『え? あ、うん』
『もう! あ、うん。じゃないでしょ? 罰として帰りにチョコパフェおごってね?
決まりだかんね!』
『え、ちょっとまってよ』
『いいじゃん、あんたはパフェよりもずっと甘いものあるんだしさ!』
素直に祝福してくれる早苗。彼女はマネージャーに混ざり、荷物の移動を手伝っていた。だから、自分も、それに自然に、参加、したはず……。
ハーフタイムを迎えて一対〇。負けている。
山陽高校サッカー部はどこか連携が弱く、オフェンスが空回りしているように見えた。
――もしかして、隆一君のせい?
前半を見る限り、隆一のスタンドプレーが目立ち、チャンスを何度かつぶしていたのが現実。
『ちくしょう、絶対いけると思ったのに』
彼の実力は十分に認められている。普段なら全体を見渡せるプレイヤー。なのに、今日に限ってそれが発揮されていない。
『おい、リュウ。もっと肩の力抜けよ。彼女が見てるからってがんばりすぎ』
二年生の先輩のたしなめの言葉に頷く隆一を目にして、雅美は自分が何かできないものかと悩んでしまう。
もし、彼が本当に自分の前で格好をつけたいのであれば、おそらく後半戦もきっと同じ。
かといって、試合を見ないなどという選択肢もない。
『隆一君。がんば!』
そう声をかけるのが精一杯。
『なあ、雅美』
『何?』
『俺、試合に集中する』
『うん』
『もし、この試合勝ったら、さ……してもいい?』
『……うん』
耳元でささやくやんちゃな彼。
雅美はぽっと熱くなる気持ちを胸に、小さく頷く。
これはもう二人の世界。
きっと、他人の入り込めない世界なんだ。
周りの部員たちの顔もぼやけ、隆一だけが、グラウンドに向かう彼だけが見えて、あとはもう……覚えていない。
――*
「でもさ、最後、すっごく惜しかったよね」
「う、うん。そうだね」
試合は結局一対〇のまま終了。
約束は果たせず、帰り道は早苗が気を遣ってくれてなのか、二人だけだった。
何も話さず、ただ黙って下を見るだけの帰り道。
けれど、もうすぐ家が見えるころ、彼が手を握ってくれた。
それだけで幸せだと思えた。
「ね、隆一君と昨日なにはなしてたの?」
「え、秘密だよ。秘密」
耳もとに息を吹きかけながら彼がくれた言葉。
……キス、してもいい?