逃げ出しタイッ!?-44
「ゴメンナサイ。俺、怖くて、怖くて……」
最初に口を開いたのは、達郎だった。
すでに目は赤く、泣きはらしていたのか、鼻の辺りは鼻水が白く乾いているのが見えた。
「全ては顧問の、私の監督不輸不届きだ。どんな、何を言っても、だが、本当にすまなかった」
「いや、いや、いやだ……なんで、貴方たち、最悪、最低だ、酷すぎる。いやああああああああああーーーっ!!!!」
しばしの絶叫。
それもおそらくは、防音加工の壁に染み入って消えゆくのみ……。
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「いや、いやだぁ……」
泣きじゃくる雅美は唯一の同性、白鳥に泣きつき、白衣に顔をうずめる。
「宮川さん、辛かったろうね」
唯一の女性である白鳥は彼女の髪を撫で、後藤に視線を送る。
「宮川、すまない」
かといって出てくる言葉はいまさらの謝罪。そもそも、実行犯でもない者の言葉など、何の慰めにもならない。
「……なんで、みんな、んぐ、知ってるの? どうして?」
赤い目でちらりと後藤を見る雅美。そしてすぐに白鳥に抱きつく。
「それは、先週の部活で島崎の調子がおかしくて、試合前だってのにサボるんで
ちょっと聞いてみたんだ。そしたら、まあ、ぽつぽつと話だして……」
「ごめん。俺、マネージャーに酷いことして、家に帰っても、罪悪感、感じちゃって、怖くて、でも、親に言えなくて、だから、眠れなくて、試合どころじゃなかった。全部、悪いのは、わかってるけど、けど、怖くて。後藤先生に、聞かれたとき、終わったと思って、だから、全部話して、俺だけ、楽になりたくなったんだ……」
後藤に促されて達郎が告白する。
先週の部活はどうだったろうか?
特に記憶にない。
達郎どころではなかったというのが、雅美の正直な気持ち。
もちろん、彼にされたことを全て許せるかといえば、それも違うが、もし忘れられるのなら、そのまま封印してしまいたい記憶。
しかし、白日のもとに晒された。
どのようなルートで広まったのかはまだ不明だが、原因の一端は達郎の自白にある。
「酷い、自分ばっかり、苦しいのは、一番苦しいのは私なのに! あんたなんて最低よ。くずだわ! このくず男!」
「宮川さん」
抑えられない気持ちは攻撃的になり、うなだれ、視線を空にさまよわせる少年へと向けられる。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
ひとつ年上の男は小学生のように泣きじゃくり、何度も頭を床に叩きつける。それに見かねた井上が彼を制するが、怒りにくれる雅美にしてみれば、そのまま……。