逃げ出しタイッ!?-42
――ウソ、隆一君が!?
しかも、暴力を振るっているのが、クラスメートの隆一。
――じゃあ、相手は?
いがぐり頭の男子の顔は何度か殴られているせいか、ところどころ赤く腫れ上がっているが、見覚えがある。
――田辺。
「ちょっと、やめなよ……」
「おい、リュウ……」
取り巻く生徒たちはあまりの出来事に動けずにいる。
そもそも、なぜ二人が?
見守る一同はみな同じ気持ちでいた。
「お前は、お前は!」
真っ赤になっている隆一の額に赤い筋が見えた。押し返そうとする悟の手の爪が引掻いたらしく、血が流れでている。
「うっせえ、童貞やろうが! 俺にさわんじゃねー」
組み伏せられる格好の悟は腕力では敵わずとみて、口撃で応戦する。
「黙れ!」
右の拳が悟の顎を揺らし、「ぐぅ……」といううめき声を最後に沈黙する。
「お、おい、リュウ、もう、そのぐらいでいいだろ?」
悟が抵抗しないところを見て、男子の一人が隆一の肩に触れる。
「うっせー、俺は! こいつだけは! ゆるせねーんだ!」
そしてもう一撃。
すでに意識もうつろな悟は何も言わず、ただ殴られるだけ。
「お、おい! やめろ、つかやべーって!」
男子は言葉で諭すのをやめ、強引に羽交い絞めにする。けれど隆一はまだ殴り足りないのか、それを解こうと必死に身体を動かす。
「どうしたんだよ。お前らしくねーぞ? なあ、りゅう、何があったんだよ」
「こいつが! こいつが!」
床に仰向けでうなる悟に敵意むき出しの隆一。
普段の穏やかな様子も、試合中の真剣な様子もなく、ただの暴漢……。
「いや、隆一君が……、嫌だ……」
想い人の鬼のような表情、残虐な所業を目にし、雅美はへたへたとその場に座り込む。
「ま、雅美……ちゃん」
か細い声に気づいたらしく、隆一は彼女のほうを見る。
一瞬目を丸くして、そして、悪鬼がおちたように呆けたあと、何か悔しそうにして男子を振り切る。
「あ、おい、りゅう!」
不意を突かれた男子はしりもちをつくが、教室を走り去る隆一よりも鼻血を噴出す男子の方が優先事項と、「誰か白鳥呼んできて」と養護教諭の名を叫んだ。