逃げ出しタイッ!?-34
――そういえば隆一君、勝てたのかな?
玄関で体育座りをして彼らをやり過ごそうとする雅美。
どうしてここに居るのか? それはおそらく部員名簿からだろう。達郎などすでに篭絡されているようなもの。
――あは、おかしいの。
味方になってくれる人など居ないと思いつつ、いまさら個人情報の漏洩に憤ろうとする浅はかな自分。どこか甘いところがあると、雅美は哂いたくなった。
「んじゃ帰るか。あーあ、せっかくやりまん女とやれると思ったのによ」
「あ? あれ、先輩、あの子」
「ん? あ、えと」
「うちに何か用ですか?」
――智美?
携帯の時計を見ると三時五分。妹が帰ってくるにはやや早いが、タイミング的には最悪。
「へえ、かわいいじゃん」
「なんですか? 人を呼びますよ?」
「人を呼ぶだって。なに? 怯えてるの?」
「大丈夫、俺ら怖くねえよ。ただの雅美ちゃんの先輩だからさ」
――まさ、しないわよね?
へらへら笑いながら智美に話しかける二人に、雅美はある不安を抱き始める。
「なあ、お姉ちゃんが学校で何してるか知りたくない?」
「知りたくありません。帰ってください」
「そう言わずにさ、ほら、ちょっと待ってて……」
――!?
おそらくは例の痴態を録画した携帯端末。
「い、いらっしゃい! 待ってましたよ二人とも! 今玄関開けるから」
雅美は慌ててドアを開けると、にこやかな作り笑いで二人を招き入れる。
「おねえちゃん、居たの? 試合は?」
勢いよく開いたドアに驚きながら智美は少し安心した様子で眉間の皺を消す。
「うん、ちょっと今日はちょっと気分悪くって、だから先輩たちに資料とか試合の記録とか頼んでいたのよ」
「そうそ、んじゃおじゃましまーす」
昇は一瞬雅美をにらみつけた後、首で案内するように促す。
「私の部屋に来てよ……、あ、智美は気にしないでね。ちゃんと勉強しててね」
「うん、わかった……」
どこかわざとらしい姉の態度に不審な様子の智美だが、姉がそういうならとそれ以上を口にはしなかった。
ただ、階段を上がる二人に「べえ」と舌を出していたのは、彼女なりの抵抗でもあった。