逃げ出しタイッ!?-33
「うぅ、げほっげほっ!」
重い体だが、反射を封じ込めることはできなかったらしく、ばしゃばしゃと水面をたたき、立ち上がる。
「うぅ、苦しいよぉ……」
鼻水を出しながら気管に入った水を吐き出そうと必至になる雅美。彼女の体は心の弱気に従うことをせず、生きようとしている。
「いやなのに、いきていても、いいことなんか、ないのに……」
乾いたはずの涙がまたぶり返す。
――でも、
熱いシャワーを出し、頭から被る。
――しねないの……。
彼女の支えなど、今の生臭い水面下の出来事を誰にも知られたくないということだけ。
それは、生きるうえでの目的には程遠いのだが?
**
タオルで髪を拭き、ドライヤーで残った水分を飛ばす。
セミロングの髪は嫌いではなかったが、乾きにくいのが困る。
気持ちを切り替えるうえでもと、普段より乱暴に熱風を当てる。
多少の毛の痛みなど、この際気にしていられないのだし。
「ふぅ、どうしよ」
ハンガーにあった服を適当に選び、適当に着る。
桃色のショーツにベージュのショートパンツ。
少し肌寒いけれど、Tシャツとパーカーを羽織り、それでおしまい。
近所を歩くぐらいならこれで十分。
かといって、何をすることもない。
今日の予定は自分でたて、自分で取り消したのだ。
今からどこかへ行こうか?
そう思う気持ちも萎える。
なら、夢の中へ逃避すべき?
起きた後、泣いているのが嫌でそれもしたくない。
ピンポーン
日曜の昼下がりにだれだろうと、玄関へ向かう雅美。
そして悪夢の続き。
覗き窓には例の二人がいたのだから。
**
「雅美ちゃーん、いるんでしょ? あけてよ」
「……」
息を殺し、音を立てないように注意する。
「隠れても無駄だぞ? つか、出てこないとわかってんだろうな?」
脅しの材料は増えるばかりで、一向に改善されることはない。
誰かに相談すれば? いや、そうしたところで、自分を陵辱するものが一人増えるだけだ。誰も頼りにならない。だから、今、こうして黙って、貝のように、引きこもるしかない。
「いねんじゃね? まだサッカー部の応援かよ。まったくやりまんマネージャーだから」
「そっすね、今頃乱交でもしてんじゃないっすか?」
玄関先で卑猥な冗談を言い合い、笑い合う二人。