逃げ出しタイッ!?-31
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市のグラウンドで行われる試合は近隣の高校が六つ参加しての小規模な大会。
二つのリーグに分かれて二試合ずつ総当り戦を行い、勝ち星の多いチームで決勝を行うというもの。
それほど形式ばっているわけでもなく、ひとつのグラウンドで二つの試合を同時に行うという強行日程には都合がよかった。
山陽高校のベンチは駐車場近くのフェンス間際。
応援に駆けつけているチア部の声援を受けながら、スターティングメンバーはみな真剣な様子で監督の話に耳を傾けていた。
そして、それを寂しそうに見つめる二つの眼差し。
――隆一君、がんばってね。
道路からフェンス越しに一人立つ雅美。
今朝一番のメールは早苗のもの。
――おはよー!
今日さ、直接行く? やっぱり部外者だし、一緒のバスとか無理だしね。でも、隆一君、なんか試合が近づくにつれてなんかさらにカッコよくなるよね? そう思わない?
…………
くすりと笑い、そのあと返した内容は……、
――Re:おはよー!
ごめん、今日いけない。やっぱり陸上部の試合のほうにいかないと。やっぱり私マネージャーだしさ。その代わり私の分も応援してきてね。
なのに、グラウンドの近くまで来ている自分。
惨めな気持ちだが、遠目にも彼の姿が見たかった。
この一週間、雅美はしっかりと学校に行き、部活に出ていた。
不思議なことに悟も昇も何も言わず、ただ普通にマネージャーとして接してきた。
彼らのことだからきっと練習後に性処理を強要してくるとばかり思っていた雅美には、安心には及ばぬものの、つかの間の休息を得ていた。
約束どおり、今日はサッカー部の応援に行くつもりだった。
けれど、気が引ける。
――だって、あわせる顔、ないんだもん。
だからこの一週間、雅美は隆一を避けていた。
なぜだろう? 彼は気さくに話しかけてくれているというのに、すべて早苗の後ろに隠れてやり過ごしていた。
早苗はそれを応援と勘違いしてくれていたが、むしろ感謝しているのは雅美のほう。
隆一が怖い。
彼に、自分を知られるのが怖い。
――汚れた人が隆一君のこと好きっていっても気持ち悪いよね。だから、いいの。
こうして貴方の後姿を見られれば……。
そう思いつつも、彼が振り返ればと願わずにはいられない。
複雑の思いのこもった視線には、けなげにタオルを渡そうとする早苗の姿があり、隆一は顔を拭いたあと、頭を下げているのが見えた。
――がんばりなよ。早苗。
胸にくるじんとした痛みは、おそらくただの嫉妬。
けれど、親友なら、それもありだと……、
――もう、いくね。見たくないし。
思えないのが恋心。