逃げ出しタイッ!?-3
――私も……いこっかな、来週ならあいてるし。
雅美は一人その輪に入れず、教室の隅っこで日誌を書いていた。
いつもなら彼のほうから話を振ってきてくれるのに、今日は人だかりのせいでそれもできない。そして、彼女自身、彼を独り占めしようというほどのうぬぼれも無かった。
――んでも、絶対いつか告るんだから!
タイミングはいつがよいだろう?
例えば、国立競技場を後にした、閑散とした、それでもさめやらぬ熱気のなかで、二人、寄り添い、心を重ねあわせて……。
――なーんちって。
妄想の中では両想いな彼女はつまらない現実に視線を落とし、昨日の出来事をそれらしくまとめていた。
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「来週の日曜、試合あるけどマネージャー、平気だよな」
洗濯カゴをどさりと落とし、雅美は達郎を見る。
みな彼女に気遣う様子も無く上半身を晒し、中にはトランクスひとつになっているもさも居る。
「え? なんで? 急に?」
汗臭い光景など見慣れたもの。それよりも重要なのは、来週の予定。
スポーツの秋というよりはまだ残暑の厳しい九月前半になぜに? と疑問を抱くも、学校の名前を売りたい後藤のことで、無理やりにでも大会を見つけてきたのだろう。
「困るってば、来週は私、サッカー部の応援あるのに」
「マネージャーは陸上部なんだからさ、こっちにくるのが当然じゃん?」
ついこないだまでは部のエースであった山形昇はうっとおしい茶髪の髪をかき上げながら言う。
「だって、だって……」
――せっかくの彼の晴れ舞台にいけないなら、こんな部活やめてやる!
「わかったわかった。んじゃさ、ちょっとお願い聞いてよ。な、キャプテン、今回はいきなりっぽいし、いいだろ?」
「おい、山形、勝手なこと言うなよ」
「いいじゃん、俺と悟で準備すっからさ」
「……まあ、お前らがそれでいいんなら」
片思いが始まってから何度も切り出そうとしていた言葉。それを今しがたもう一度飲み込み、予想外の希望に目を輝かせる。
「だってさ」
しぶしぶ頷く達郎を追い出し、しまりのない笑顔を雅美に返す昇。
「あ、ありがとうございます。でも、お願いってなんですか?」
「あとでいうから、さ、練習練習!」
パンパンと手を叩きながら部員をせかす昇を訝かしみながらも、もしかしたら応援にいけるかもしれないと、上機嫌な雅美だった。