逃げ出しタイッ!?-23
「んじゃ、あとでね」
「うん」
約束を取り付けただけでも満足なのか、早苗は上機嫌で席へと向かう。
その背後で、雅美は胸を押さえて席に着く。
いったい胸中で暴れまわる動悸の理由は何なのか?
意中の人に声をかけられたから?
ならこの油汗は?
手を開くとじっとりと湿り気を持ち、おでこをぬらすものが前髪をぺたりとひっつける。
理由などわかっている。
おそらくは、たとえ好きな人でも怖いのだ。
**
放課後、職員室に向かう雅美。手には退部届けを持ち、視線は下をみつつもすれ違う男子を極端に避けていた。
立て続けにあのようなことがあれば当然だ。
誰に相談することもできず、ただ傷が癒えるのを待つ。
そんな消極的なことでよいのかと思いつつ、大事になれば辱められるのはやはり自分だと声にできない。
――私は間違ってないもん。
思い出すと悔しさで涙が出そうになる。せめて後藤が声にできない気持ちを汲んでくれたら。
そう願った……。
*−*
なぜ自分はいつものように部室に向かうのか。
職員室に後藤の姿はなく、代わりにキャプテンの達郎がいた。
彼は彼女に気がつくと寄ってきて、その手にあった退部届けに驚いた。
なんとか考え直してほしい彼は「今日は後藤が居ないから自分が退部届けを預かる」といい、その前に詳しい話を聞きたいからと部室に来るように言う。
本当は嫌だった。
けれど、私物がある。ジャージの上下に、先日忘れていったモノ。
――そういえば汚したまま逃げ出したっけ。
ショーツも忘れ、スパッツも忘れ、水筒も……。
床は精子と自らの分泌物、唾液にお茶が巻き散らかされていた。
あの状況を見たら誰でも連想できる。
性的な行為があったと。
もう行くべきじゃない。
けれど先を行く達郎についていく。
なぜだろう?
確かめたいからだろうか?
誰が知っていて、誰が知らないのか。
――ふふ、おっかしいんだ。
そんなこと知ったところで、現実は変わらない。
乗り越えるには足枷にしかならないのに……。