逃げ出しタイッ!?-22
どうせ……。
自暴自棄ではないと自分に言い聞かせ、たまにブレーキを踏むも、後輪がきしみ、悲鳴のような音を立てるばかり。
まるで……。
――うるさい、黙れ!
彼女は強く心の中で叫び、沸き起こるノイズを振り払った。
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一日の学校は特に変化もない。隆一の周りは相変わらず同部員とマネージャーがいたりするが、ギャラリーの数は減っている。
「おはよう、雅美、もう元気なの?」
「あ、おはよう早苗。うん、もう大丈夫」
クラスメートの早苗がやってきてかわいらしい笑顔を向けてくれる。
もう日常なのだ。
そう実感させてくれた。
「ねえ、来週の日曜だけどさ、雅美、一緒に来てくれるよね?」
「え? なんで? 早苗だけじゃだめなの?」
普通に戻るのなら当然彼女もライバル。ただ、こちらの気持ちが知られていないだけ有利だろうか?
「お願い。一人じゃいきにくいし、隆一君、なんか雅美と一緒じゃないと話しづらくって」
「うん、わかったよ。日曜はあいてるし」
「ありがとう。やっぱり持つべきものは親友ね」
「これぐらいどうってことないよ」
自然な笑顔を返せるのは、相手が彼女だから。けれど、恋のライバルなら、いつかはにらみ合うことにもなりかねない。
――やだな、友達と彼氏、どっちを選べばいいんだろ。
少々気の早い悩みと思いつつ、心の中では苦笑い。もしかしたら目の前の彼女も?
「なになに? どうかしたの?」
「ひぃっ!」
不意に肩に触れた手。雅美は飛びのくようにその場を離れたため、机ががたんと動く。
「なんだよ、そんなにびびるなよ」
「おはよう、隆一君。今ね雅美と一緒にサッカー部の試合に応援しにいこうって言ってたの」
現れたのは二人の意中の人、隆一。早苗は満面の笑顔と猫なで声でお出迎え。
「そうなの、雅美ちゃんも来てくれるんだ。ありがとう」
「あー、その言い方だと私はアウトオブガンチュウじゃん、ひどーい」
「いや、だって雅美ちゃんは陸上部の試合あるんだろ?」
「うん、でも、マネージャーだし、だから、来なくっても、いいって……」
「そうなんだ、んじゃさ、俺はりきっちゃうよ。なんせマネージャーでもないのに可愛い子が……二人もきてくれるんだし」
ちらりと早苗のほうも見るところが彼の気遣いなのだろう。彼は妙に口ごもる雅美に気づかぬ様子でそのまま教室を出る。
「もう、隆一君てば雅美ばっかり!」
「そんなこと、ないよ。彼、誰にでも愛想いいし」
「うん、それが不満。てか、もっと私を見てーって感じかな」
きっと早苗の妄想の中でも二人は両思い。依然、その距離は縮まった様子もないのだが。