逃げ出しタイッ!?-2
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「あ、マネージャー、おはよう」
「おはようございます」
部室にいたのはキャプテンの島崎達郎。雅美は彼に目もくれず、形だけの挨拶をしたあと、無造作に積まれているタオルを抱えて部室をでる。
――やっぱりさわやかっていうか、暑苦しくないほうがいいわ。
黄ばんだタオルを洗濯機に入れたら、あとは洗剤もそこそこにスタート。ソフターなど使う必要も無い。それほどの思い入れもないのだし。
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その日の部活は少し違っていた。
顧問の後藤正弘はみなを集めると、色の違うユニフォームを着た男子の肩を叩きながら言う。
「えーと、今日から一緒に走ることになった一年の田辺悟君だ。みんな、仲良くな」
「田辺悟っす、よろしくお願いします」
四月でもないのに急な新入部員。雅美はそれほど気にはしなかったが、それは他の部員も同じ。形式的な挨拶を交わした後、顧問の後藤の激励と同時にトラック十周が始まった。
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健脚というか、俊足というか、新入部員は群を抜いていた。
跳躍なら高さ、距離に申し分がなく、砲丸投げは体重の割りに距離が出ている。
それなりの実力のあるはずの山陽高校陸上部より平均をみて頭ひとつぬきんでている。
それがみなの感想だった。
――へー、すごいんだ。田辺君。
ストップウォッチ片手に記録する雅美は口笛を吹くようにすらすらとボールペンを走らせる。
五十メートル走の結果はキャプテンより一秒近く早い。
インターハイの記録と比べれば差があるものの、盛り上がるものがある。
だが、彼の青々しい坊主頭を見るとそれほど魅力も感じない。当然、彼女の視線が向かうのは、より高みを目指すサッカー部の例の子だけなのだから。
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来週の日曜日はサッカー部の秋の学区内新人戦。近隣の高校のみで六校しか参加しないだけに一、二年の独壇場。
当然期待の新人である隆一はスタメン出場で、しかもフォワード。
得点に絡む重要なポジションを任されたせいか、いつもよりクラスの人だかりが大
きくなっていた。
「ねーね、次の試合でスタメンでしょ? 応援いってもいい?」
「すげーな、なあ、ハットトリックとか決められる? 決められたらジュースおごってやるよ」
「つか、一点も取れなかったらお前、帰るクラス無いからな!」
「そんときは骨拾ってやるよ」
みな適当なことを言い合い、そして激励をしていた。