やっぱすっきゃねん!VM-5
「…秋川?返事は」
「監督…ボクが先発ですか?」
永井の言葉が信じられない。 しかし、永井は質問を聞こうとしない。
「今日はおまえだ。期待してるからな」
「はいッ!」
途端に秋川の顔が弾けた。
見つめる佳代たちも、胸を熱くした。
翌朝10時前。
「いつものアップやるぞッ!」
キャプテン山下達也の号令の下、ベンチ入り16人は芝生の上を走る。
球場に到着した青葉中は、試合への準備に取り掛かった。
ランニング後の入念なストレッチ、キャッチボールにバットの素振りと、“動ける身体”にするため40分ほどを費やす。
「じゃあ佳代。先に行ってるから」
「うん、応援よろしくッ」
1、2年生の部員たちや、学校関係者。それに尚美や有理のような友達などから構成された“青葉中応援団”は、ひと足先に球場入りした。
残っているのは、ベンチ入り部員と永井と葛城、そして、藤野一哉だけ。
しかも一哉は、何も云わない。ただ、黙ってアップを眺めていた。
球場入りする時刻が迫っている。
「藤野コーチ。何かありませんか?」
整列した選手に対し、永井がアドバイスをと一哉に求めた。 すると一哉は、
「心をひとつにして戦え…」
ただ、ひとことを残して客席通路へと消えた。
(コーチ。どうしちゃったんだろう?)
不可解な行動は、永井や葛城ばかりか選手までにも動揺を与えていた。
「じゃあ行くぞッ!」
不穏な空気を断つように、永井が声を掛ける。選手たちも気持ちを入れ替えようと声を返すと、総勢18人はグランドに通じる入口へと向かった。