やっぱすっきゃねん!VM-4
「そんな時にコーチから云われたんだ。“試合に出れなくても、仲間が代わりに戦ってくれていると思え”って。
それを思い出したら、あんなこと云った自分が情けなくて…」
修が見せた、すまなそうな顔に佳代は胸を熱くした。
「そんなに思い詰めなくていいよ。わたしなんて、こんな考え持ったのは、ほんの数日前なんだからさ」
姉の本心を聞かされて、修の中にあった申し訳ない心が幾分軽くなった。
「じゃあ姉ちゃん、明日は頑張ってね。スタンドから応援してるから」
「うん。ありがとうッ」
修は一言を残して部屋を後にした。佳代はしばらくドアの方を眺めて、小さく微笑んだ。
「修の奴ったら…」
再びスパイクを手にすると、磨く手に力を込めた。
翌朝。
学校グランドに集まった部員たち。そのレギュラー陣の纏うユニフォームは、それ以外の者たちにとっての憧れだ。
白を基調としたユニフォームは、左胸に“A”とだけ刺繍されたシンプルなデザイン。
反して帽子やアンダーシャツ、ソックスは目に鮮やかなブルーで、他の中学校のユニフォームよりとても目立つ。
以外のユニフォームはすべてが白色。左胸には刺繍でなく、本人の名字をマジックで書いた布が縫い付けてある。
彼らはいつの日か、試合用ユニフォームに袖を通したいと、日々、努力を重ねていた。
「ベンチ入りメンバーを発表する」
試合用ユニフォームを身に付けた、25人の顔に緊張が走る。
「1番、ライト澤田ッ」
(えっ、わたし?)
一拍おいて“やったぁッ!”という声が1年の列から上がった。
「誰だ?今、声を上げたのはッ」
「す、すいませんッ!」
皆の目が集まる中、ひとり修は、カメのように首を引っ込めた。
(あのバカ…)
弟を見る佳代の目は笑っている。
「次、2番サード乾…3番ファースト一ノ瀬…」
次々とメンバー発表が進むのを、秋川は焦りの心で聞いていた。
「5番センター加賀…6番ピッチャー稲森…7番レフト足立…」
(やっぱり…今回もダメか…)
半ば諦めかけてた時に、
「8番セカンド森尾、9番ショート秋川…」
自分の名前を呼ばれた。