やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑭-14
サインの変更に、達也も加賀もヘルメットを触った。
加賀は再びバントの構えを取る。キャッチャーはピッチャーにサインを送り、ミットを外に構えた。
ピッチャーの左足が上がった。初球同様、ファーストとサードがホームにダッシュする。
その時、加賀がバットを引いて構え直す。バスター狙いだ。
ファーストとサードは、慌ててブレーキを掛けた。
ボールは外に外れ、加賀は見逃した。
（これで確率は増えた…）
仮にバント守備でバスターをやられたら、外野に抜ける危険がある。といって、バントに備えないと、２塁どころか内野安打になるかもしれない。
芦屋中は結局、前進守備という中途半端なシフトを敷いた。
加賀はバントの構えのまま。ピッチャーは達也への牽制を挟んで３球目を投げた。
ファーストとサードは、加賀にバスターの動きがないのを確認してからダッシュした。
ボールは真っ直ぐ。バットに当たる瞬間、加賀は握る力をわずかに緩めた。
「アッ！」
ボールは転がらずに小フライとなった。飛び出した達也は、２塁近くから慌てて戻ろうとする。
サードがダイレクトにボールを掴み、１塁をカバーするセカンドに送球する。
「アウトッ！」
塁審が右手を上げた。ノーアウト１塁が、２アウト、ランナー無しとなってしまった。
その後、稲森がヒットを打つが、次の足立が三振を奪われて無得点に終わった。
そして、互いに点を取れないまま５回裏を迎えた。
「この回、おまえの力を全部出し切れッ」
達也がマウンドで語気を強め、稲森はただ、無言で頷いた。
この回さえ抑えれば、後は佳代や中里、淳が控えているからだ。
「頼むぞ…」
達也は、マウンドを離れながら別のことを思案する。
膠着した試合展開。このような場面で、ピッチャーを替えたりすると試合が動く場合があるのだ。
かといって、今日の稲森は本調子でない。どこがで見極めて交替させねばならない。
達也は、替えどころを考えていた。
打順は１番からクリーンアップに繋がる。この試合の勝負どころだ。
青葉中のブルペンでは、中里と淳が投球練習を始めた。
（何かやるならココだな）
達也は、マスクやプロテクターを触れてブロックサインを出した。
“バント注意”と内野に促す。初球は外角高めのサイン。稲森は頷いて投球動作に入った。
バッターは駆けながら、バントの構えに変えた。セーフティ・バント狙いだ。
バットにボールが当たった。が、打球はファウルゾーンに転がった。