サンタクロース-1
「…何か?」
突如、そのサンタコスした不審者はあたしの方を振り向いた。
「い、いえ、別に…」
「ふーん」
あ、また犬の毛のブラッシングするんだ。
もういいっしょ。
しっかし、汚い犬。チワワ?
元は白だと思わしき毛並みは、埃か何かで灰色になっている。
ブラッシングの前に風呂に入れてやれ。
「そこにクシがあったので」
またもや急に、不審者のおっさんは口を開いた。
そしてさっきみたいにあたしの方を向く。
「私の職業ですか?」
「いや、聞いてないです」
「サンタクロースです」
だから聞いてないです。
本格的にドン引きです。
「あ、そう」
本当になりきってるんだ。
でも、ここは聞き流すに限る。
これ以上の深入りは自らの身を滅ぼしかねない。
「あなた、信用してませんね?」
えー、まだ絡むつもり?
「いや、信用してます」
「サンタクロースなんている訳ねぇだろ。なんだこのおっさん、サンタのコスプレしやがって気持ち悪いんだよ!とか思ってますね!?」
九割五分正解。ウザいって単語が入ってれば完璧なのに。
「じゃあ正直に言わせてもらうけど、思ってますよ、完全に。サンタコスして非常に残念なおっさんだな思ってましたよ、最初から!」
「やはりな」
そこでなぜ得意気?
「だから話し掛けないでくれません?」
「あなたが私をサンタクロースだと信じてくれるまで私はここを離れませんよ」
しつこい。しつこすぎる。
何なの、このおっさん。
犬までその目は何?
何「信じるまで帰さねぇぜ」的な目でこっち見てんの?
「じゃあ聞くけど、あんたの本当の職業は?」
「ムショ、サンタクロースどす」
無職って言いかけてんじゃん。しかも、どすって。