サンタクロース-6
「…マイ」
お母さん…。
「…ごめんね、マイ」
お母さんがゆっくり近付いてくる。
「お母さん、心配したんだから…!」
お母さんがあたしの前まで来たと思ったら、いきなり頬が弾けた。
いや、弾けたんじゃない。
叩かれた…。
思ったより痛くはない。
頬が冷たかったからか、それよりも驚きの方がでっかかったからか知らないけど。
びっくりして俯くことしか出来ないあたしを、お母さんは殴っときながらギュウウッと強く抱き締めた。
「マイ…ごめんね。お母さんのせいで…」
グスッと鼻を啜るお母さんを耳元で感じ、心臓がぐっと捕まれたみたいに縮んだ気がした。
目の奥がじんと熱くなる。
じんわり視界が歪んだ。
「お母さんが悪いんじゃないよ…あたしが…。本当は分かってるんだ。認めるのが怖かっただけ」
嫌いじゃない。むしろ好きだったし、こうなることを望んだ。
でもあたしまで認めちゃったら、死んだお父さんが悲しむんじゃないかと思った。
お母さんの旦那さんを「お父さん」って呼んだら死んだお父さんが何になるか分からなくて…。
「家出してごめんね。お父さんに謝らなきゃ」
「うん、心配してたから…」
「分かった」
お母さんも安心したのかやっと笑った。
呼び方なんて関係ない。
あたしが大切にしていればそれでいいじゃん。
なんていつの間にか思えるようになっていた。
「ねぇマイ、あの女の人は誰だったの?」
二人で並ぶ帰り道。お母さんはそう言って首を傾げた。
「見てたの?」
お母さんがこくんと頷く。
「だから話し掛けられなくて」
「サンタコスしたおっさんが連れてたチワワの飼い主」
「サンタコスしたおっさん?」
「あたしと一緒いたでしょ?サンタクロースの格好したおっさん」
お母さんにあの不審者と一緒にいるところを見られたのはショックだ。