サンタクロース-5
「いいのに、遠慮なんて」
いやいや、違くて…。
「あたしは何もしてないので」
おっさんがお世話してたんだし。
「ふふ、そっか。それでも、私はあなたのこと一生忘れないからね」
「はあ」
「サンタさんって本当にいるんだね」
「はい?」
そう言い残し、彼女はあたしに背を向け歩いていってしまった。
あれ、お礼は無し?
会話が噛み合ってないけど…。
あたし、変な人ばっかに合うな。
風に乗って彼女の声がまだ聞こえる。
「ごめんね、ダックス。私があんな奴と付き合ったばっかりに…。あいつとは別れたから。私の家族にあんなことするなんて信じられない…」
へぇ、別れたんだ。
それならダックスは安心だ。
てかさ思ったんだけど…。
「おっさん!何であの人の家庭状況知ってんの?」
「私がサンタクロースだからです!」
威張るな!
「嘘!本当はあの人のストーカーなんでしょ!?」
「ちっ違います!さて!私は仕事に戻ります!あなたに説教されましたからね!」
あ、都合が悪くなってきたから逃げるんだ。
でもこれでやっと解放される。
「おう行け行け」
「それではあなたに幸せなクリスマスが訪れますように。アディオース!」
瞬間、突風が吹いた。
雪を纏ったそれは顔に刺さるように吹き荒び、瞬時にあたしは目を瞑った。
「何が幸せなクリスマス…」
呟きながら目を開けた。
おっさんがいたところだけ、重力無視で粉雪が舞っていた。
不思議なおっさんだった。
そして何よりウザかった…。
あたしは粉雪の向こうに立つ人影に気付く。
雪がハラハラと舞い散り、人影を鮮明にする。