サンタクロース-4
「ダックスはその女性にとっても可愛がられていたんです」
「そんなに可愛がられてんのに、どうしてダックスはここにいんの?」
「聞きたい?」
自分から話振っといてムッカつくわ〜。
「…聞きたい」
「女性には最近、彼氏が出来た。その彼氏は大の犬嫌いだった」
おっさんは天を仰いで吐き捨てるようにそう言った。
つられてあたしも空を見上げる。
淀んだ空から白い塵のようなものが落ちてきた。
普段なら雪が降ってきたら喜ぶのに…。
そんな気分にはなれない。
「もしかしてその男がダックスすてたの?」
「そういうことです」
ひどい。
そいつ許せない。
ダックスは悪くないのに。何で一人ぼっちにさせられなきゃいけないの?
「今日はクリスマス。その女性はサンタクロースに何を望むのでしょうねぇ…」
「え?」
おっさんが少し笑った。その時だった。
「ダックスー!」
背後から女の人の叫ぶ声が聞こえた。
おっさんに撫でられていたダックスが一目散に走り出す。
それを追うようにあたしは振り返った。
数メートル先に女の人がしゃがみ込んでいる。その腕の中には、千切れんばかりに尻尾を振るダックスが。
まさかこの人が?
女の人はあたしたちの姿を見つけると満面の笑みで駆け寄ってきた。
「あなたがダックスを?」
確かにおっさんの言う通り綺麗な人。
おいおっさん、鼻の下伸びてんぞ。
でもこの綺麗な人がチワワにダックスって名前を付けたんだよね…。
何だろ、この悲しい気持ちは。
「ええ、まあ」
あたしは何もしてないけどね。
「本当にありがとう!何かお礼がしたいけど…」
何もしてないから、さすがにお礼は受けとれないな。
「いや、あたしはお礼はいりません。後ろのおっさんに…」
おっさんに食事でも。