ピリオド 中編-1
朝、いつもと違う風景がオレに違和感を与える。
(…そうだ。夕べは亜紀と…)
昨夜は2人で、かなりの量を飲んだ。おかげで亜紀は酔い潰れてしまい、仕方なく布団に寝かせてオレはソファに寝たんだ。
「ふッ…ンンーーッ」
慣れない場所で過ごしたおかげで、背中がキシキシと痛む。
思い切り身体をストレッチして起き上がり、となり部屋に続く扉を開ける。
亜紀は、部屋の真ん中に敷いた布団にくるまって寝息を立てていた。
(このまま置いちゃ行けないな…)
時刻は6時半。出かけるまで幾らもない。
「姉さん、起きてくれよ」
そばに近寄り、耳元で声をかけた。
「う…ん…」
何度も繰り返すが、寝返りを打つだけで起きようとしない。
夕べの酒も手伝ってか、ぐっすりと眠っている。
そうしているうちに、出社時刻が迫ってきた。
(仕方ない。ちょっと置いておこう)
優先度を出社準備に切り替えて洗面所に向かう。
手早く洗面を済ませ、スーツに着替えた。その間も亜紀は起きる気配さえみせない。
「まったく…」
支度も終わり、再び寝室を覗き見る。身体を横向きにしてひざを曲げた姿勢に、過去がオーバーラップした。
それは互いに小学生の頃、朝が苦手だった亜紀を起こすのはオレの係だった。
(あの頃と同じだ…)
幼い頃によく見た寝姿は、不思議な感情を芽生えさせた。
思わずしゃがみ込み、亜紀の顔を除き込んでいた。
乱れた髪を、そっと指先で撫でてやる。長いまつ毛、わずかに開いた口唇、白いうなじ。
すべてが、愛しく思えてしまう。
そっと肩に手を置いた。柔らかさと共に伝わる痩せた感触は、どんな生活を送ってたのかが伝わって来るようだ。
(…情けねえ…)
オレは、心の中にある想いをしまい込む。
「姉さんッ!ホラッ、いい加減目を覚ませって」
今度は揺すったおかげか、亜紀はようやく目を開けた。
「…今、何時…?」
「もうすぐ7時半だよ。オレ、仕事だからさ」
「ごめんなさい、お布団取っちゃったね…」
呟くような声の後、顔を歪めて頭を両手で覆った。
「…頭痛い…」
「酔いつぶれて寝てたのを運んだんだ」
その途端、亜紀の顔色が変わった。