ピリオド 中編-7
「どう?」
「…驚いた。あの頃と同じ味だ。姉さん、お袋に習ったのか?」
「案外、簡単なのよ」
そう云ってレシピを教えてくれたが、料理が苦手なオレには大変な手間に思えた。
昨夜のチキン南蛮といい、懐かしい味に触れられたことで、これほどの幸福感に満たされるとは思ってもみなかった。
楽しい時間はアッという間に終わりを告げた。
「片づけはオレがやるからさ。姉さんは風呂にでも入ってきなよ」
空になった食器を、とろうとした亜紀の手を止めた。
「ダメよ。アンタは仕事で…」
「そんなにヤワじゃないよ。それに、野球部じゃよくやらされてたんだ」
「野球部って、そんなことも
やらされるの?」
驚く亜紀を尻目に、オレはテーブルに広げられた食器を重ね置く。
「合宿や大会の時さ。1年生は全員、やらされるんだ」
ひとまとめにした食器を流しへ運び、蛇口のコックをひねった。
亜紀はそばに来て、不安そうな顔でオレの手元を見つめている。
「ほら、いいから」
「…う、うん。それじゃお願いね」
ようやく離れてくれた。
まったく、ひとをいつまでガキ扱いするんだか。
食器洗いを済ませ、リビングで寛いでいるとバスルームの扉の音が聞こえた。
「和哉、上がったよ」
「はいよ」
と振り返って驚いた。
「あのさ、今日も泊まるつもりなのか?」
何でパジャマなんか着てんだよ。
「そうよ、悪い?」
当然みたいな顔で。またオレのペースを乱そうとする。
「またオレにソファに寝ろってのかい?」
「いいわよ、今夜はわたしがソコに寝ても」
「姉さんに、こんなトコ寝かすわけにゃいかんだろッ」
「あら、じゃあ一緒にお布団に寝る?そしたら匂いも嗅げるしねえ」
いたずらっぽい顔で笑ってやがる。いまいましい。
「勝手にしろッ!」
オレはバスルームへと消えた。
バスタブに浸かりながら再び考えた。
何故まとわり付くんだ?洗濯や料理はまだしも、服や下着まで。結婚する以前も互いに独り暮らしをしていたが、こんな世話やかれたことなかった。
それに、これ以上そばに居られたら、自分を抑えられるか自信がない。
「まいったな…」
結局、考えがまとまらないままバスタブを出て洗い場に移った時、後ろの扉の開く音がした。