ピリオド 中編-6
駐車場にクルマを停めた。
自分の部屋を見上げると、いつもは真っ暗なハズの部屋に明かりが灯っている。
「おかえりなさいッ」
「た…ただいま…」
開いたドアの向こうから、暖かな空気と料理の匂いがオレを包み込んだ。
そして亜紀の柔らかな笑顔を面りにした時、先ほどまでの自分は居なかった。
オレは、この状況を喜んでいる。
「ほら、ごはん出来てるから先に着替えてらっしゃい」
「あ、ああ…」
云われるままにクロークのある寝室に入ると、すでに部屋着が用意してあった。
「なんだ、こりゃ?」
真新しい服は、胸元の広く開いた長袖シャツと細めのズボン。
「またかよ…」
おまけにビキニパンツまで。買い物とか云って、また遊んでやがる。
とりあえずスーツを脱ぎ、服だけ着替えた。
「やっぱり、良く似合ってるッ」
リビングに現れたオレを見て、亜紀は声を弾ませた。
「買い物とか云って、オレのを買ったのかよ?」
「そうよ。アンタのクローク覗いたら、ろくな服が入ってないじゃない。全部古くさいモノばっかり」
「だからって、こんな…」
「何云ってんの。身体の線が出る服の方がアンタには似合うの」
「そうかな?」
「そうよ。それより、ごはん食べましょ」
テーブルには、懐かしい料理が並んでいた。
「これ、姉さんが作ったのか?」
アサリの味噌汁に冷奴、ほうれん草のお浸し、そして鰯のすり身の煮付けに鶏肉の笹身のバターソテー。
オレの原点ともいえる料理。
小学生低学年の頃、魚も肉も嫌いだった。それが原因かは知らないが、病気がちでよく学校を休んでいた。
事態を憂慮した両親は、あらゆる方法を試したらしい。その中で唯一、オレが美味しく食べたのがすり身の煮付けと笹身のバターソテーだったそうだ。
それからは、週に2回は同じメニューが出た。
食べ続けて1年経った頃に変化が現れた。
病気がちだった体質が改善されたのだ。そして、偏食も徐々に治っていった。
その年からだ。地元の野球グラブに入ったのは。
オレは床に座り込むと、さっそくすり身の煮付けに箸を伸ばした。
亜紀は対面からオレの第1声を待っている。