ピリオド 中編-5
「じゃあ姉さん。早めに帰れよ」
2人分書かれた勘定書きを持って後輩の元に戻った。
「さっきの方…ご兄弟ですよね…」
店を出てクルマの中、吉川の第一声に驚かされた。
「…よく、分かったな…」
期待どおりのオレの顔に、吉川は嬉しそうに目元を指差す。
「目元がそっくりでしたから。多分、そうじゃないかなと…」
「姉さ。実家に帰って来てるんだ」
「…すいません」
車内に静寂が降りた。どうやら勘づいたらしい。
「さあ、次は〇〇町に行ってくれ」
「はい…」
それきり会話は途絶えた。静かなクルマの中、オレはメンタルレストを仕事に切り替えた。
夜9時に会社を出た。クルマに乗り、エンジンをかける。
(…今から実家かよ)
憂鬱な気分が広がるが、行かなきゃアパートに帰れない。
オレは、携帯に残された亜紀の番号を押した。
1つ、2つとコール音が続くのだが、いっこうに繋がらない。
(いったい何やってんだ?)
10回目のコールでようやく 繋がると、
「もうッ!遅いわねえ。何やってんのよッ」
亜紀の怒った声が先に聴こえてきた。
「何やってるじゃないだろッ、今まで仕事だったんだ」
「あんまり遅いから帰っちゃおうかと思ったのよ」
なんだって。イヤな予感がする
「ちょっと待ってよッ、今、実家じゃないのかよ?」
「何云ってんの?アンタのアパートに決まってるじゃない」
予感は的中した。と、同時に怒りがぶり返す。
「…分かったッ、すぐ帰る!」
オレは途中で話を切り上げた。
「くそッ!」
つい、運転が乱暴になっちまう。あいつは、亜紀は何を考えてるんだ。
(オレに付き纏いやがって…)
その瞬間、頭の中に異質なモノが広がった。
「…何で纏わり付くんだ?」
ますます意味が分からない。何が目的なんだ。何をしようとしてるんだ。
答えの無い思考のスパイラルを繰り返す。ムダだと分かっているのに、切り替えが出来ない。
(何を望んでるんだ…?)
直感が働く。この先に答えが待っている。漠然とだが、おそらくそうだ。離婚話だけでない、本当に伝えたいことが。
そうして、帰る途中のすべてを費やしたが、結局、見つけることは出来なかった。